時代劇『トンイ』でパク・ハソンが演じていた仁顕(イニョン)王后。1689年4月に廃妃となり、王宮を出されて粗末な家で質素に暮らした。一方の張禧嬪(チャン・ヒビン/演者イ・ソヨン)は王妃に昇格して贅沢ざんまいの生活を続けた。立場が変わった2人は好対照な暮らしぶりだった。
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仁顕王后は木綿の白いチョゴリを着ていたが、兄の閔正字(ミン・ジョンジャ)の娘がよく遊びに来ていた。娘は8歳になるのだが、仁顕王后からみれば可愛い姪なので、愛情をもって面倒を見ていた。裁縫をていねいに教えてあげたが、特に時間をかけたのが『小学』を勉強させることであった。
この『小学』というのは、子供用の儒教の学習書である。良家の子供たちはかならず勉強する書物であり、仁顕王后も幼い時によく読んでいた。そこで彼女は姪に丹念に『小学』の内容を教えてあげていた。姪といると仁顕王后は本当に心が休まるのであった。
そんなことが続いたある日、家の庭先に大きな犬が急に入ってきた。その犬はみすぼらしく、世話係の宮女が追い払ってもいつのまにかまた入ってきてしまった。そんなことを何度も繰り返しているうちに犬は家に居ついてしまった。
仁顕王后はこう言った。
「本当に不思議なことです。このまま放っておきましょう」
このように言うのも仁顕王后の優しさだった。
宮女が食べ物を与えるようになると、犬はやがて子犬を3匹産んだ。そうなると、警戒心が強くなり、周囲で不穏な動きが起こると大きな声で吠えたてた。その姿はまるで、役に立つ番犬のようであった。おかげで、家の周りは平穏になった。
犬でさえ世話になったら恩を忘れないのである。それに対して宮廷の人たちはどうなのか。仁顕王后に世話になった人がいっぱいいるというのに、恩を返そうという人はほとんどいなかった。
そのことで宮女たちは嘆くのだが、仁顕王后は誰かを恨むこともなく、静かに日々を過ごしていた。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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