時代劇『トンイ』にもチ・ジニが演じる19代王・粛宗(スクチョン)がひんぱんに登場するが、彼を含めて国王は全部で27人だった。それぞれの国王には、即位するときに熱いドラマがあった。中でも、4代王の即位のときは秘められたエピソードが潜んでいた。その末に、名君が誕生していったのである。
世代交代のきっかけを作った3代王・太宗(テジョン)は、「大王」と呼べるほどに存在が強烈な国王だった。晩年の彼にも悩みがあった。
それは、世子に指名した長男の譲寧(ヤンニョン)よりも、三男の忠寧(チュンニョン)が間違いなく優秀だったことだ。それを一番感じていたのは、実は譲寧自身だった。
自分の力不足を感じた譲寧は、自らの王位継承権を返上するために変人を装った。譲寧は酒ばかり飲んで、生活が乱れたフリをした。
その姿を見ていて太宗は、しだいに長男のことが許せなくなった。ついに、譲寧から王位継承権を奪ってしまった。高官たちは反対したが、太宗は自分の決定を押し通した。
二男の孝寧(ヒョニョン)は、空白となった後継の座に執着した。自分こそ王位にふさわしい、と思い込んで、それまで以上に学問に打ち込んでいった。帝王学を学んで知識を積み重ねる日々は、彼にとって未来を切り開く唯一の道であった。
そんな孝寧のことを譲寧はじっと見ていた。そして、ついに我慢できなくなって弟の部屋を訪ねた。孝寧の目に映った兄は、いつもの放蕩に明け暮れる姿ではなかった。
重々しい真剣さを帯びた面差しを持っていたのだ。そして、譲寧は孝寧に対して「我々は国のために退かなければならない」と直言した。すべてを理解した孝寧は、王位を辞退するという決断に至った。
1418年、忠寧はついに王位に就いた。父親の太宗が譲位したからである。こうして4代王・世宗(セジョン)が誕生した。彼は後に史上最高の聖君と呼ばれ、朝鮮国王27人の中で最上の尊敬と称賛を受けた。本当に素晴らしい君主であった。
世宗の即位は兄たちの犠牲と愛情に支えられた結果だ。兄たちの優しき心は王権を超えて人の絆の尊さを語りかけているのである。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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