【歴史秘話】『風と雲と雨』の憎き壮洞キム氏はホントウに実在したのか

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朝鮮王朝の19世紀中盤の壮大な歴史をドラマチックに描いている『風と雲と雨』。

主演俳優パク・シフが扮する王朝最高の易術家チェ・チョンジュンは、腐敗した政治状況を変えようとして奮闘していく。この展開は本当にスリリングなのだが、チェ・チョンジュンの前に打倒すべき標的として立ちはだかるのが壮洞(チャンドン)キム氏であった。

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ドラマでは、チャ・グァンスが演じるキム・ジャグンが壮洞キム氏の総帥になっていて、キム・スンスが扮するキム・ビョンウンが狡猾な策士としてチェ・チョンジュンを徹底的に苦しめていく。さらに、ヒロインのコ・ソンヒが演じるボンリョンを軟禁状態に拘束して主人公2人の運命を狂わせていくのである。

ドラマ『風と雲と雨』では俳優チャ・グァンスが壮洞キム氏の総帥キム・ジャグンを演じた。
(写真提供=© 2020 TV Chosun)

しかも、国王である哲宗(チョルジョン)ですら、壮洞キム氏に頭が上がらない。それほどこの一族は強大な権力を握っているのだが、果たして、朝鮮王朝の歴史の中で壮洞キム氏は実在したのだろうか。

結論から言うと、この点に関してドラマは史実に基づいていると言えるだろう。

確かに、19世紀の朝鮮王朝には国王を上回るほどの権勢を誇った一族がいたのだ。それが安東(アンドン)キム氏の一族だった。つまり、『風と雲と雨』に登場する壮洞キム氏は、史実では安東キム氏のことなのである。

彼らが力を得るきっかけになった人物は、23代王・純祖(スンジョ)の正室となった純元(スヌォン)王后だ。

彼女が大変なやり手で、自分の出身一族である安東キム氏の身内を次々に政権の要職に就けた。それによって安東キム氏は気の弱い純祖より発言力が大きくなっていって、やがては国王を上回るほどの存在感を確保するに至った。

これを「勢道(セド)政治」という。王の外戚が政治を取り仕切ることを意味しているのだが、安東キム氏はまさに勢道政治の象徴であった。

こうして安東キム氏の権力は続き、国王が純祖、憲宗(ホンジョン)、哲宗(チョルジョン)と代わっていっても、政治の中枢は安東キム氏がずっと独占していた。

結局、1810年代から1860年代前半まで50年近く安東キム氏の勢道政治が続いたのだが、その弊害はあまりに大きかった。利権がすべて安東キム氏に集中したために、賄賂政治が横行して統治機構の腐敗が深刻になった。

歴史的には、26代王として高宗(コジョン)が即位して父親の興宣君(フンソングン)が実質的に政治主導者になってから、安東キム氏の勢道政治は終焉を迎えたのであった。

『風と雲と雨』はこうした歴史の事実をうまく取り込んでストーリーは構築されている。ドラマでは、壮洞キム氏の権力を打倒するためにチェ・チョンジュンが興宣君と手を結んでいくのだが、それは朝鮮王朝の歴史で特に重要な場面だったのである。

『風と雲と雨』では名優のチョン・グァンリョルが興宣君を演じている。彼の重厚な演技が歴史のダイナミックな動きをうまく表現していた。

そういう意味でも『風と雲と雨』は、優れたキャストによって歴史の面白さを十分に堪能させてくれる作品だと言えるだろう。

文=康 熙奉(カン・ヒボン)

世子の急死によって持続・朝鮮王朝を衰退させた「勢道政治」とは?

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