今年10月にDVDがリリースされ、レンタルはもちろん、U-NEXTでも独占先行配信されている『風と雲と雨』。あのパク・シフが9年ぶりに時代劇の主演を務め、女優コ・ソンヒと息を合わせて最高のラブロマンスを繰り広げるが、壮大な歴史を描くドラマとしても重厚な内容を持っていることも特長だ。
描いている時代背景は1860年代。この時期は朝鮮王朝の第25代王・哲宗(チョルジョン)の統治時代の終盤だ。
ドラマで哲宗は国王でありながら無力である。そして、実質的な権力は壮洞(チャンドン)キム氏の一族が持っていて、政治を牛耳っている。
【関連】『100日の郎君様』の真実…悪徳高官キム・チャオンのモデルは安東キム氏?
こうした歪んだ権力構造を変えようとして、パク・シフが演じるチェ・チョンジュンは易術の知識を生かして奮闘努力する。しかし、壮洞キム氏の力は絶大で、チェ・チョンジュンだけでなく、コ・ソンヒが扮するボンリョンも翻弄されていく。
それでは、実際の歴史はどうなっていたのだろうか。
ドラマで登場する壮洞キム氏は史実で安東(アンドン)キム氏のことだ。
この一族を統率していたのが、23代王・純祖(スンジョ)の正室だった純元(スヌォン)王后である。彼女は勝ち気な性格で絶大な権力をつかみ、勢道政治(国王の外戚が仕切る政治)で王朝を支配した。
純祖が亡くなったあとも純元王后は権力を手放さず、自分の息子だった孝明(ヒョミョン)世子は早世してしまったが、孫の憲宗(ホンジョン)を操って政治の主導権を握り続けた。
その純元王后が驚愕したのが、1849年に憲宗が22歳で急逝したときだ。憲宗には息子がおらず、次期国王の候補者がいなかった。
すると、純元王后は江華島(カンファド)で農業をしていた元範(ウォンボム)という青年を探し出してきた。彼は王族の末端ではあったが、漢字すらも読めず無学だった。
そんな男なのだが、なんと純元王后は元範を即位させた。それが哲宗なのだ。そして、それもすべて、安東キム氏が権力を維持するために行なった仰天人事であった。
こうして誕生した哲宗を『風と雲と雨』ではチョン・ウクが演じていた。ドラマで哲宗は病弱で意志も弱かった。
しかし、無名時代の哲宗が故郷の江華島で愛した女性がボンリョンの母という設定になっている。つまり、ボンリョンは翁主(オンジュ)なのだ。翁主というのは王の側室が産んだ娘のことで、劇中でボンリョンは急に王族となって運命が激変していくのだが、哲宗はそんな娘と母親を必死に守り抜こうとする。
彼には故郷の江華島に特別な愛着があった。『風と雲と雨』というドラマが江華島から始まって主要人物たちが江華島を故郷にしていたことは、哲宗の来歴に大きく関係していた。いわば、『風と雲と雨』は哲宗と江華島をキーポイントにしたドラマなのである。
では、史実の哲宗はどのような王だったのだろうか。
さまざまな文献を総合すると、彼は国王でありながら安東キム氏に実権を握られてしまい、本当に不本意な統治に甘んじなければならなかった。その屈辱から抜け出すことができず、反動から贅沢な暮らしに溺れてしまった。
そして、哲宗は1863年に32歳で世を去った。
故郷で農業をしてゆっくり生きていれば、果たして彼の人生は幸せだっただろうか。少なくとも、もっと長生きできたことは確かだろう。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
前へ
次へ