時代劇『トンイ』において、張禧嬪(チャン・ヒビン/演者イ・ソヨン)の母親であるユン氏をチェ・ランが演じている。ドラマでは失敗が多い母親なのだが、彼女に関する歴史エピソードがある。それは“輿(こし)事件”と言われているが、どんな出来事なのだろうか。
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実は、粛宗(スクチョン)の寵愛を受けた張禧嬪が1688年に待望の長男を産んだ直後のことだ。張禧嬪の母が産後の娘を世話するために屋根つきの輿に乗って王宮へ入ろうとしていた。すると、待ち構えていた司憲府(サホンブ/官僚の不正を取り締まる役所)の官僚たちが、張禧嬪の母を輿から無理やり引きずり降ろし、その輿を捨ててしまったのである。
この報を受けた粛宗は烈火のごとく怒りをあらわにした。
「王子の祖母に対して、なんということをするのか!」
その怒りは当然であった。張禧嬪の母は、平民の身で勝手に宮中に入ろうとしたのではなく、国王が認めた側室の母として、正式に屋根つきの輿に乗っていたからである。粛宗は司憲府を徹底的に糾弾し、次のように詰問した。
「貴人の母親が宮中に入るのを侮辱したという前例は聞いたことがない。余が許可した輿で入ろうとしたのに、これほどの辱めを受けるとは…。司憲府は王権を愚弄するつもりか」
粛宗は、この行為を王権そのものへの挑戦とみなし、さらに生まれたばかりの王子への西人(ソイン)派からの脅迫と受け取った。実際、この辱めを指示したのは、西人派の高官ばかりであった。
なぜ西人派はここまで激しい行動に出たのか。実は、西人派は張禧嬪を支持する南人(ナミン)派の勢力拡大を恐れ、過剰なまでに防衛反応を示していた。興味深いのは、この事件が単なる家族の一幕ではなく、宮廷を二分する激しい党争の縮図であったことである。
結局、この“輿事件”は、粛宗の怒りを引き起こしただけでなく、王権と司憲府、西人派と南人派という複雑な権力抗争を鮮烈に浮かび上がらせることになった。実際、宮廷の権力闘争がいかに日常の細かい場面にまで及んでいるかを如実に物語っていた。
文=大地 康
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