Netflixで配信中の新作ドラマ『暴君のシェフ』。時代劇とファンタジー、そしてグルメとロマンスを豪奢に絡み合わせ、配信早々に話題を呼んでいる。
ガールズグループ少女時代出身のイム・ユナ演じる一流シェフのヨン・ジヨンが、時空の扉を越えて朝鮮王朝の宮廷にタイムスリップ。そこで待ち受けていたのは、美食の世界において比類なき舌を持つと同時に、冷酷無比な支配者でもある王イ・ホン(演者イ・チェミン)であった。
このイ・ホンは架空のキャラクターだが、実在した朝鮮王朝第10代王・燕山君(ヨンサングン)をモチーフにしているとされており、燕山君は「朝鮮王朝最悪の暴君」として悪名高い。
朝鮮王朝第9代王・成宗(ソンジョン)の長男として1476年に誕生。幼少期、母・斉献(チェホン)王后が父である成宗とのトラブルにより死罪となり、母の愛情を知らずに育ったことが影響してか、性格はわがままで攻撃的となり、1494年に即位してからは数々の暴政を繰り返した。
その性格の荒さを示す逸話はいくつも残されている。
ひとつは、成宗が可愛がっていた鹿に手を舐められたことに腹を立て、蹴り飛ばしたうえ、即位後にその鹿を殺したという話。もうひとつは、帝王学を学ぶ中で自分を厳しく指導した教育係を恨み、即位直後にその人物を処刑したという逸話だ。
それだけではなく、君主となると学問の場である成均館(ソンギュングァン)を酒宴の場へと変え、放蕩生活に明け暮れた。一方で、士林派(サリムパ)官僚への弾圧や母の死への報復など残虐な事件も引き起こしている。
1498年には「戊午士禍(ムオサファ)との呼ばれる士林派官僚を大量処刑した事件を起こし、1504年には母の死に関わった者や反対勢力を徹底的に排除した「甲子士禍(カプチャサファ)」という大粛清も行った。この時には墓を掘り返し遺体の首をはねるなど、残忍極まりない行為が行われたと伝わる。
さらに庶民に対しても暴君ぶりを発揮。国王批判の文が掲げられたことを知ると、庶民のハングル使用を禁じるという過酷な措置を取った。また王族や身近な人物にも苛烈な仕打ちを重ね、伯母を辱めて自害に追い込んだこともある。
これに反発した高官の朴元宗(パク・ウォンジョン)は、左遷された成希顔(ソン・ヒアン)や人望厚き柳順汀(ユ・スンジョン)らと共にクーデターを計画。1506年、ついに決起し、燕山君は側近や兵士に見放されて廃位された。
その後は江華島(カンファド)へ流刑され、わずか2カ月後に死去。病死説と毒殺説が存在する。暴政に加担した「朝鮮王朝三大悪女」のひとり、張緑水(チャン・ノクス)も斬首に処された。
このようなことから朝鮮王朝27代の王の中でも最悪と評される燕山君。それだけに韓国時代劇ドラマで登場ることも多く、『王と妃』ではアン・ジェモ、『インス大妃』ではチン・テヒョン、『逆賊-民の英雄ホン・ギルドン-』ではキム・ジソク、『七日の王妃』ではイ・ドンゴンが演じた燕山君を演じた。
しかし、今回の『暴君のシェフ』はあくまでもモチーフとしているだけで、その暴挙を描こうとしているわけではない。サバイバル要素をはらんだロマンティックコメディである。
イ・ホンを演じるのは、近年注目度を急速に高めている俳優イ・チェミン。若手俳優の中でも頭角を現す彼が、王イ・ホンにどのような新しい命を吹き込むのか。期待は高まるばかりだ。
文=韓ドラ・時代劇.com編集部
◆『暴君のシェフ』概要
放送局:tvN (2025年)
出演者(役名):イム・ユナ(ヨン・ジヨン)、イ・チェミン(イ・ホン)、カン・ハンナ(カン・モクジュ)、チェ・グィファ(済山大君〔チェサンデグン〕)、ユン・ソア(ソ・ギルグム)
監督:チャン・テユ(『星から来たあなた』『根の深い木 -世宗大王の誓い-』『風の絵師』など)
脚本:fGRD
配信情報:Netflixにて独占配信中
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