映画『観相師』で登場する首陽大君(スヤンテグン)。
のちに第7代王となる世祖は、“癸酉靖難(ケユチョンナン)”と呼ばれるクーデターで王位に就いたが、彼を暴君と決め付けるのは早計だ。
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確かにそのやり方は強引だった。朝廷内の重鎮だった金端宗(キム・ジョンソ)を暗殺し、その後も政敵を容赦なく粛清している。
だが、彼が王になったことで王権は強固になった。
兄で第5代王の文宗(ムンジョン)や甥で11歳の若さながら王になった第6代王・端宗(タンジョン)の時代は王権が弱体化していたが、世祖は王の権限を強める制度改革を実施。
また、法制度を強化するために、朝鮮王朝時代の基本法典といえる『経国大典(キョングッ テジョン)』の編纂を開始し、国家財政を安定させる政策も打ち出している。そのため、「欲望にまみれた無能な王ではなかった」と評価する意見もある。
一方、映画『王の男』で登場する第10代王・燕山君(ヨンサングン)の暴挙としてまず目に付くのが、弘文館(ホンムングァン)などの政治機関を廃止し、当時の最高学府である成均館(ソンギュングァン)を遊興の場に変えてしまったことだろう。
他にも城から約40kmを進入禁止にして、猟場として利用したとの記録も残っている。その地の住民は強制移住となり、土地や財産を失ってしまった。
さらに燕山君は、全国各地に官吏を派遣して、美女を集めさせている。その数は「万人」とも言われているが、その一人が張緑水(チャン・ノクス)だった。
燕山君と出会ったときの彼女は、すでに出産経験もあり、燕山君よりも年齢が高かったと推測されている。
燕山君は諫言する臣下を自ら弓矢で虐殺し、それまでの歴代王が作ってきた制度を破壊するなど、数々の暴挙を繰り返した。そして欲望のままに酒池肉林の生活を送り、国家財政が貧窮すると、庶民に重い税を課した。
そんな燕山君の最後は、クーデターで王座から追放されるというもの。その最後は哀れだった。
ちなみに燕山君が失脚すると、張緑水も斬首刑に処された。民衆はそれでも怒りが治まらず、彼女の遺体には無数の石が投げられたという。贅沢の限りを尽くした暴君と、彼の取り巻きの最後は、とても惨めなものだったのだ。
文=慎 武宏
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