ベストセラー小説をドラマ化した『赤い袖先』は、既存の韓国時代劇ドラマの中でも抜きんでた完成度を誇っていた。
何よりも、史実を巧みに取り入れたストーリーはワクワクさせられるほど面白かったし、細部まで洗練された映像美は視聴者の感性を心地よく刺激してくれた。
ドラマ作りというのは大衆のための究極的な総合芸術と言えるが、真の意味で『赤い袖先』は企画・脚本・演出・キャスティング・撮影のあらゆる面で比類なき成功を収めている。そういう意味で、「朝鮮王朝の王宮を舞台にした時代劇の最高傑作」と評することができるだろう。
当初、このドラマの一番難しいところは、朝鮮王朝第22代王・正祖(チョンジョ)と彼が愛した宮女ソン・ドギムの至上の愛を描いている点だった。なぜなら、すでに正祖については名作『イ・サン』で細かく取り上げられていたからだ。
イ・ソジンが演じた主人公イ・サン(正祖)のキャラクターは名君にふさわしい思慮深さと威厳に満ちていて、ドラマ好きな人たちに強く印象づけられている。それだけに、再び正祖と宮女の物語をドラマ化すると、視聴者は「結末までよく知られている話」を見せられる恐れがあった。
そんな危惧を払拭したのが、『赤い袖先』の演出を担ったチョン・ジイン監督だった。才能豊かなこの女性監督は、チョン・ヘリ脚本家と協力して小説『赤い袖先』のエッセンスを巧みにドラマに取りいれ、1人の女官から見た名君の苦悩と成長を巧みにストーリーに生かしていった。
特に、ジュノ(2PM)とイ・セヨンという2人の主人公のキャスティングが大成功だった。『赤い袖先』が兵役からの復帰作となったジュノは、徹底的に史実を頭に入れて名君の人物像を豊かな表現力で演じていた。
また、子役時代から経験豊富なイ・セヨンはまるで自分が朝鮮王朝時代に生きていたかのような存在感で宮女ソン・ドギムを情緒深く演じきっていた。改めて、ドラマの成功を左右したのは「主人公2人の演技力」であることを痛感した。
さらに言うと、英祖(ヨンジョ)を演じた重鎮俳優イ・ドクファの緊迫感あふれる演技がドラマを引き締め、王宮の許されざる愛を描いた作品に重厚なイメージを付加していた。
こうして完成した『赤い袖先』は、史実に基づいた王朝宮廷劇の面白さを改めて再認識させてくれた。最近は史実にはない架空の物語が時代劇を彩ることが多かったが、『赤い袖先』の成功を機に再び正統派の宮廷劇が脚光を浴びるようになるに違いない。
それゆえに、『赤い袖先』の成功の意味は、計りしれないほど大きい。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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