フェミニズムやSF、ヒーリング小説など、さまざまジャンルの小説が韓国語から日本語に翻訳され、「K文学」の愛称でも親しまれている韓国小説。現在は、ブームから“現代のリアル“を求める人たちが読みたい文学として定着をし始めており、文芸ファンや一般読者からも人気が高い。
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筆者自身、どちらかというとエッセイや人文系の書籍を読むことが多く、そのうえ有り得ないほどに並行読みをしてしまうタイプの人間なので、どの国の小説でも長編は避けがちだ。そんな私と仲間である方々におすすめしたいのが、超短編集や短編小説集。そこで今回は、邦訳版が刊行されている韓国の短編小説集を中心に紹介していく。
◆『大都会の愛し方』パク・サンヨン著、オ・ヨンア訳、亜紀書房
2025年6月13日から日本でも大ヒット上映中の『ラブ・インザ・ビッグシティ』の原作小説。複数の短編で共通の登場人物や世界観などを共有しながら、全体として一つの大きな物語を構成する「連作小説」という形式をとっている。映画はこの中に収録されている『ジェヒ』という章をもとにストーリーが作られたのだそう。
あらすじは、自由奔放に生きるジェヒと、ゲイであることを隠して孤独に暮らすフンス。互いに「自分らしさ」を認め合う特別な存在となり、大学を卒業しても変わらぬ絆を信じていた2人だったが、その関係に思わぬ危機が訪れる…というストーリー。
日本では、2020年に邦訳版が刊行。割と発売されてすぐに購入して読了した記憶があるが、2025年の映画公開で鑑賞したのをきっかけに久しぶりに読み返した。つい最近通り過ぎた、20代の心情の移り変わりが繊細に描かれていたり、30代特有の孤独や揺らぎが濃密に描写されていたり…。20代だった5年前と30代になった今、読むタイミングが違うだけで感じることも違うのだなと、なんだか不思議な気持ちになった。
◆『私たちのテラスで、終わりを迎えようとする世界に乾杯』チョン・セラン著、すんみ訳
詩やショートショートを含む、21篇が収録された作品集。チョン・セランさんの作品は長編小説が数多く邦訳出版されている印象だが、不動の人気を誇るといっても過言ではない『フィフティ・ピープル』と併せておすすめしたいのが本作品だ。
前述したように、筆者は複数の本を並行読みをする人間のため長編小説はめったに読まないのだが、私と同じようなタイプの方、そして「チョン・セランさんの作品が気になるけど、初挑戦で長編小説はハードルが高いかも」と思う方には、ハマる作品であると個人的に感じている。
それぞれの作品の終わりにコメントと、どの媒体にいつ載っていたのかが記載されているのも注目してほしいポイントだ。チョン・セランさんがどのような執筆活動をしてきたのか、どのような想いがあって書いたのかが垣間見える部分でもある。どの作品も短めで、寝る前にの読書にもぴったりな長さなので、ぜひチョン・セランさん入門編として手に取ってみてほしい。
◆『コミック・ヘブンへようこそ』パク・ソリョン著、チェ・サンホ絵、渡辺麻土香訳、晶文社
韓国文学界の新鋭が贈るユーモアと温かさがあふれる、9篇の作品が収録された短編集だ。マンガ喫茶での夜勤、かつらを探しに出かけるがん患者、奇跡に遭遇する売れない俳優、兵役中の恋人を待つ女性たちのネットコミュニティ。SFや恋愛など、何気ない日々を懸命に生きる人々をさまざまジャンルと多彩な筆致で描かれている。途中途中にカラーの挿絵が15点ほど挟まれており、目でも楽しめる作品だ。
著者が1989年生まれと比較的年齢が近く、同世代ということもあり、すっと自分のなかに入ってくるストーリーが多かった。「そういや自分もこう思いながら仕事しているときあるわ。笑」「人を見る時の基準、なんか分かるかも」など……。これからもっともっと邦訳されてほしい作家さんの一人である。
◆『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』ファン・ボルム著、牧野美加訳、集英社
2024年本屋大賞の翻訳小説部門で第1位となった長編小説。会社を辞めたヨンジュは、ソウルの住宅街に「ヒュナム洞書店」を開く。店には、夢に挫折したバリスタのミンジュンや、夫への不満を抱えるジミ、高校生のミンチョルとその母ヒジュ、作家として歩み始めたスンウなど、さまざまな人が集まる。競争社会から少し離れ、それぞれが自分らしい生き方を探していく物語だ。「長編」と銘打たれてはいるが、かなり細かく章が分かれており、毎日一つずつ読んでいく楽しみもある作品。
また、キャリアや働き方に悩む人にも助けになる物語ではないかとも思う。「働け働け」という社会が嫌になる時もあるが、一方であまりにも緩すぎると「このままで将来大丈夫なのだろうか…」と思ってしまう筆者には、なんだか考えさせられるシーンが多かったように感じる。そして、近くにこんな書店、というか自分の心のセーフスペースがあったら幸せだろうなとも思った。とにかく、皆さんに読んでほしい韓国の小説だ。
今回は、筆者自身が読んでみて感じたことやエピソードも交えて皆さんにおすすめしたい韓国小説を紹介してみた。「普段手に取らないものに挑戦してみたい」「最初にどの韓国小説を読んだらいいかよくわからない」、そんな方に参考にしていただけると私も大変うれしい。
(文=豊田 祥子)
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