昔ながらの“惣菜屋”、“地産地消”、“ペダル文化”が進化 !【韓ドラから見える食のトレンド①】

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韓国ドラマに欠かせないのが「食」のシーンだ。多くの視聴者を魅了した『暴君のシェフ』のように、料理そのものがテーマになる作品も多い。料理は感情を伝え、相手との絆を深め、ときには政治や外交を動かす力を持つ。そんな韓国ドラマから映し出される時代の空気や人々の価値観を読み解いてみる。

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●“昔ながらの惣菜屋”が“デリ風”に進化

『イルタ・スキャンダル~恋は特訓コースで~』(2023年/全16話)では、惣菜屋を営むシングルマザーとカリスマ塾講師の恋を通して、忙しい現代の食文化が浮き彫りになっている。韓国のアパート団地(マンション群)の中には昔から「バンチャンカゲ(惣菜屋)」があり、働く母親たちを支えてきた。近年ソウルでは、本作で見られるようなちょっとおしゃれなデリスタイルの惣菜屋が増え、「家庭の味を外で買う」という昔ながらのライフスタイルを支えている。

冷たいコンビニ弁当ばかり食べていた塾講師チヨル(演者チョン・ギョンホ)が、ヘンソン(演者チョン・ドヨン)の家庭料理を口にして思わず涙ぐむシーンは印象的で、まさに男が“胃袋を掴まれた”瞬間だ。ヘンソンが営む「国家代表惣菜店」は、働く母親たちに寄り添い、家族をつなぐ温もりを思い出させる存在として描かれ、バンチャン(惣菜)という韓国の日常食が、人の心をほぐす役割を果たしている。

●永く失われていた“地産地消”の見直し

『隠し味にはロマンス』(2024年/全10話)は、食の都・全州(チョンジュ)を舞台に、地方の味に新しい食の感性を吹き込み、人と土地のつながりを描いた作品だ。愛を知らずに育った食品会社の御曹司ボム(カン・ハヌル)が、全州の小さな食堂の料理人ヨンジュ(コ・ミンシ)との出会いを経て人間らしさを取り戻していく中で、“地産地消”という古くて新しい価値観を映し出している。本作では、コンナムルクッパや全州米、伝統酒・母酒(モジュ)など地元食材を使った料理が生き生きと登場し、全州南部市場など実在の場所が舞台となっている点も見逃せない。

韓国には「身土不二(신토불이)」という言葉があり、「自分の身体と、自分が生まれ育った土地は切り離せない」という意味を持つ。長い間、韓国の地方の特産品はソウルに集中する傾向があり、地方の流通、加工、販売、サービスなどの経済活動は停滞、若者の都市部への流出と高齢化が進み、地域格差が広がった。

ところがコロナ禍をきっかけに、輸送網の混乱や輸入依存への不安から、地元で作り地元で食べる“地産地消”の価値観が見直されるようになった。地方自治体や中小企業も特産物による地域ブランディングに力を入れるようになり、ソウルのトレンド発信地・聖水では、地方の食品メーカーが農産物を使ったポップアップストアを展開し、地方グルメが新しい観光資源としても注目を集めている。

ソウルのホットスポット・聖水で行われた慶尚北道の地産地消による地域再生プロジェクト「大食尊重 地域リモデリング プロジェクト」のポップアップストア。(写真提供=著者)

●超孤食時代を支える、進化する“365日ペダル文化”

『いつかは賢いレジデント生活』(2025年/全12話)では、孤食が加速する現代の食生活を象徴する“ペダル(出前)文化”をリアルに映し出す。過酷な勤務の合間に、研修医たちが出前の料理を囲んでひと息つく様子が繰り返し描かれ、そこには「同じ釜の飯を食う」ことで生まれる連帯感が息づいている。

定番のチキンやトッポッキから、サムギョプサルやユッケまで、ほとんどの料理がスマホ一つで届く韓国。かつては雨の日や家族の集まりなどに利用する便利なサービスに過ぎなかったペダルは、若者や単身者の365日の食を支える食の一大インフラへと成長し、コロナ禍で失業したタクシー運転手がペダルの配達員に転向して大成功するなど、新たな雇用も生まれた。

筆者自身もソウルのオフィステルで暮らす中で、夜中のエレベーターで、ペダルの配達員がぎゅうぎゅうに乗り合わせている光景に驚いたことがある。建物内にカフェがあるにもかかわらず、アイスコーヒー1杯を運ぶ配達員を何度も見たことがある。みんなどれだけ忙しいのか・・・。それほどまでにペダルは生活に浸透し、孤食を支える食文化として根づき、進化を続けている。

韓国では、受け継がれてきた食文化が便利さや効率を求める時代の中で、少しずつ形を変えながら猛スピードで進化している。惣菜屋も、地産地消も、ペダル文化も、その根っこにあるのは、誰かの手づくりの味がいまも誰かの暮らしをやさしく支えているということなのだと思う。(②につづく)

(文=田名部 知子)

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