数多くの名作を送り出してきた「時代劇」のカテゴリーで、『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』のように、烈しく男女の運命が歴史に翻弄されるドラマが今までにあっただろうか。そんな思いに貫かれるほど情念がほとばしる傑作であった。
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本質的に、『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』は壮大な歴史に基づいた骨太なストーリーの中で究極的なラブロマンスを描いている。
苛酷な戦乱とその後の降伏時期に何度も別れざるを得なかった主人公の2人……ナムグン・ミンが演じるジャンヒョンは、冷静な生き方から一途に愛する女性を守ろうとする強烈な個性を見せていたし、アン・ウンジンが扮したギルチェは世間知らずのお嬢様だったのに厳しい現状から必死に生き抜く強い女性に変身していった。
この2人の織りなすストーリーに、ギルチェの「憧れの人」だったヨンジュン(イ・ハクジュ)と親友のウネ(イ・ダイン)がもう一つの逸話を作っていく。このような本筋に清の侵攻という歴史の大事件がからんでいくのが、『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』の重層的な物語構成であった。
改めてストーリーを見てみよう。
時代は1636年の春だった。奔放に生きてきた両班の娘ギルチェ(アン・ウンジン)は、成均館(ソンギュングァン)の儒生たちの中でも特別に優秀なヨンジュン(イ・ハクジュ)のことを恋慕していた。しかし、彼はギルチェの親友ウネ(イ・ダイン)の婚約者だ。
ギルチェがもどかしい日々を送っている中で、村にジャンヒョン(ナムグン・ミン)というミステリアスな男がやってくる。ギルチェがヨンジュンの気を引こうと始めた「ブランコ作戦」のときに、あやうくギルチェがブランコから落下する寸前に彼女を抱いて救ったのがジャンヒョンだった。
それが運命的な愛の始まりであった。何かに惹かれてジャンヒョンはギルチェに接近するが、彼は相手にされなかった。そんなふうにのどかな村に届いたのが、清の大軍が押し寄せてきたという知らせだった。
ここからは、「怒涛のような展開」という言葉がピッタリの流れになっていく。
清との戦いに志願して地獄を見たヨンジュン、大局的な視点で国難に対処するジャンヒョン、敵の襲撃で生死の境に追い込まれたギルチェとウネ……そうした修羅場が朝鮮王朝の降伏でいったんは終結したが、その後も4人は歴史のうねりに巻き込まれる。
中でも、人質と間違われて瀋陽(清の首都)に連れて行かれたギルチェの悲惨な日々は、ドラマを見る人にも息が詰まるような緊張感をもたらしてくる。
それでも、「すれ違い」を乗り越えてジャンヒョンが助けに来る、と信じられる場面の到来が、『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』の最高潮になっていくに違いない。
ドラマ全編を通して感じるのは、世間知らずだったギルチェが苦難を通して得た成長であり、愛する人を最後まで守り通そうとするジャンヒョンの強固な信念であった。
人はどんなに苛酷な状況の中でも、信じられる人の存在があれば、それを頼りに生き抜いていける……その究極の生き甲斐を心強く感じられるのが、『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』のストーリー上の真骨頂であった。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
◆作品情報
『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』
2024年7月3日(水)発売 DVD-SET1、
2024年8月2日(金)発売 DVD-SET2
2024年9月4日(水)発売 DVD-SET3
各14,740円(税抜13,400円)
※レンタルDVD同時リリース
発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント ©2023MBC
☆2024年7月3日(水)よりU-NEXTにて独占先行配信中
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