名作ドラマ『恋人』が描く「朝鮮王朝最大の屈辱」の歴史的背景

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傑作時代劇『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』で、前半の物語を大きく動かす戦いが、「南漢山城(ナマンサンソン)」であった。この歴史的な出来事がわからないと、ドラマの理解に支障をきたすので、ここでわかりやすく解説していこう。

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満州(現在の中国東北部)を拠点にしていた後金(こうきん)が、最初に朝鮮王朝に攻め込んだのは1627年だ。

朝鮮王朝は武力で後金にかなわなかった。朝鮮王朝16代王・仁祖(インジョ)は、都の漢陽(ハニャン)を捨てて江華島(カンファド)に避難し、講和会議を重ねて後金の怒りを解こうとした。

従来から朝鮮王朝は中国を統治する明(みん)を宗主国のように崇めていたが、その方針を変更して後金を支持することが求められた。和睦が成立し、後金が大軍を引き揚げた。この一連の出来事を韓国史では「丁卯胡乱(チョンミョホラン)」という。

『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』より(写真= ©2023MBC)

しかし、仁祖は後金と交わした約束を守らなかった。怒った後金は国号を清(しん)と変えた後、1636年12月に大軍で再び攻めてきた。

またもや仁祖は江華島に逃げようとしたが、すでに清の大軍が迫ってきており、南漢山城に避難するのが精一杯だった。

南漢山城は都から東南側に25キロのところにあった。古代史の中で百済(ペクチェ)を建国した初代王がここに城を築いたという記録が残っている。以後も歴代王朝によって山城が改築され、その時々で重宝されていた。

その南漢山城に逃げた仁祖は、1万3千人の兵と一緒に籠城した。その間に、清の大軍は漢陽で略奪を繰り返した。

こうした状況の中で運命が劇的に変わったのが、『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』の登場人物たちであった。

ヒロインのギルチェ(アン・ウンジン)は貴族階級・両班(ヤンバン)の令嬢として優雅な生活を送っていたが、親友ウネ(イ・ダイン)と一緒に清の兵士に襲われる局面に追い込まれた。

そんな大ピンチを救ったのが、主人公のジャンヒョン(ナムグン・ミン)だ。彼はギルチェに好意を持つ謎めいた男なのだが、戦乱を通してギルチェの心強い守り神になる。さらに、ギルチェが慕う儒生のヨンジュン(イ・ハクジュ)は、王朝の存亡に危機感を持って清との戦いに挑んでいく。

『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』より(写真= ©2023MBC)

このように主要なキャスト4人の運命が清の侵攻によって劇的に変わってしまうが、史実に注目すると、南漢山城の中では、降伏派と主戦派が激しく対立していた。

吏曹(イジョ/官僚の人事を司る官庁)の副長官だった崔鳴吉(チェ・ミョンギル)は、すぐに降伏を主張して朝鮮王朝の生き残りを模索した。反対に、礼曹(イェジョ/儀礼と外交を取り仕切る官庁)の長官だった金尚憲(キム・サンホン)は、降伏に断固反対して徹底抗戦を主張した。長い論争の末に朝鮮王朝はさらに窮地に追い込まれた。

勝ち目はまったくなかった。ついに観念した仁祖は籠城をやめて、1637年1月に漢江(ハンガン)のほとりまで出て、清の皇帝の前で額を地面にこすりつけて謝罪した。朝鮮王朝が始まって以来の屈辱だった。韓国史ではこの第2次清侵攻を「丙子胡乱(ピョンジャホラン)」という。

『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』より(写真= ©2023MBC)

数十万人の人々が捕虜となり、仁祖の第一子であった昭顕(ソヒョン)世子も人質として清の首都の瀋陽(しんよう)に連れていかれてしまった。

『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』の前半ではこのような史実が克明に描かれている。それにしても、世間知らずのお嬢さんだったギルチェが、戦乱を乗り越えて骨太な女性に変貌していくプロセスは、迫力満点だった。

文=康 熙奉(カン・ヒボン)

◆作品情報
『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』

2024年7月3日(水)発売 DVD-SET1、
2024年8月2日(金)発売 DVD-SET2
2024年9月4日(水)発売 DVD-SET3
各14,740円(税抜13,400円)
※レンタルDVD同時リリース
発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント ©2023MBC
☆2024年7月3日(水)よりU-NEXTにて独占先行配信中

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