ドラマ『イ・サン』の大成功によって、イ・ソジンが演じた主人公の正祖（チョンジョ）も印象が格段に良くなった。
もともと正祖は政治的な業績が多かったが、ドラマの人気によってさらに評価が高まったと言える。今の韓国の人にとって、正祖はハングルを作った世宗（セジョン）に次ぐ名君なのだ。
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その正祖は思悼世子（サドセジャ）と恵慶宮（ヘギョングン）の息子として1752年に生まれている。彼の人生が暗転したのは、10歳だった1762年のことだ。有名な“餓死事件”が起こったのである。
思悼世子は父親の英祖（ヨンジョ）から素行の悪さを指摘され、ついには米びつに閉じ込められてしまった。このままでは餓死してしまう。このとき不可解なのは、恵慶宮が夫の助命を願い出ていないことだ。これは一体どうしたことだろうか。
実は、思悼世子と恵慶宮の夫婦仲は冷めきっていた。結婚当初は夫婦の間はとても良かったのだが、思悼世子が酒乱で家臣に暴力をふるうようになると、恵慶宮も思悼世子にきつく対応するようになった。それなのに、思悼世子は精神的に不安定で、いつも恵慶宮に八つ当たりしていたようだ。
その末に、英祖によって思悼世子は米びつに閉じ込められて絶食を強いられた。そのまま許されず、8日目に米びつを開けてみたら、思悼世子は餓死していた。
この間、恵慶宮はずっと手をこまねいていた。彼女にしてみれば、たとえ夫が亡くなっても、その次に息子が即位する可能性が高かった。夫の助命を嘆願しなかったのは、そういう計算が働いた結果であったと言える。
実際、1776年に息子が正祖として即位すると、その実母ということで恵慶宮は大妃に相当するような身分を得た。さらに、晩年には随筆を書いて、その中で亡き夫である思悼世子について辛辣に書いていた。酒乱の癖や家臣への暴行を強烈に批判したのだ。
ドラマ『イ・サン』では、恵慶宮をキョン・ミリが演じた。キョン・ミリといえば、『宮廷女官 チャングムの誓い』でチャングムを徹底的にいじめた悪役のチェ尚宮（サングン）を演じた女優だ。彼女は『イ・サン』で悪役でなかったが、思悼世子に対しては冷たい態度を取っており、それは史実に合うことだった。
文＝康 熙奉（カン ヒボン）
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