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進化し続ける東アジアの女性映画祭の可能性に注目!「ソウル国際女性映画祭」が描く未来とは

2025年12月24日 コラム #水落さくら
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進化し続ける女性映画祭の可能性が見える対話だった。

去る11月、第38回東京国際映画祭のイベント「ウィメンズ・エンパワーメント・ラウンドテーブル『女性映画祭の力』」が開催された。

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同イベントには、日本、台湾、韓国の国際女性映画祭のディレクターやプログラマーが一堂に会し、3時間にわたりそれぞれの映画祭の過去から未来まで、話を交わした。

本記事では「ソウル国際女性映画祭」(以下、「ソウル」)のプログラマー、ファン・へリム氏とソン・シネ氏の話を中心にイベントの様子をまとめる。

まず、同志社大学の菅野優香教授が登壇し、女性映画祭の歴史について解説した。女性映画祭は、1960~70年代のフェミニズムの思想を基盤とする女性運動のもとで生まれ、「女性が作った、女性についての、女性に向けられた映画」であることに意義があった。

近年は、女性やフェミニスト以外にもクィアなど、ほかのアイデンティティを組み込む動きが広まっているという。

そして、同イベントを企画した近藤香南子氏が、日台韓のジェンダーギャップについて説明した。複数のデータから3カ国のうち、台湾のジェンダーギャップが最も狭く、韓国、日本と続くという。

「ウィメンズ・エンパワーメント・ラウンドテーブル『女性映画祭の力』」の様子(写真提供=©2025 TIFF)

そうして各国の国際女性映画祭の歴史や現在について、開催年が早い国から順にプレゼンテーションが行われた。

トリを飾ったのは「ソウル」だった。同映画祭は、韓国で知られている女性監督がわずか7人とされていた1997年に誕生した。1990年代に盛んになったフェミニズム運動とともに、ソウルでも映画産業が活発になったことが背景にある。

当時は自治体を中心に、文化的な影響を広め、産業を育成するため、国際映画祭が設立された時代でもあった。こうして「ソウル」は、現在韓国最大の映画祭として知られる「釜山(プサン)国際映画祭」に続く韓国2番目の国際映画祭となった。

同映画祭の精神としては、世界各国の女性映画を上映し、女性の物語を取り上げ、商業映画では対象化されがちな女性の登場人物が主体的そして現実的に描かれることを重視する「女性の目を通じて世界を見よう」がある。

こうしたなかで、菅野教授の解説にもあった通り、同映画祭も絶えず変化を試みている。それを象徴するのは、今年のスローガンとなった「Fを想像する」だ。“Female”(女性)だけでなく、“Fellowship”(連帯)“Friendship”(友情)など、生物学的、二分法的な区分に縛られないさまざまなFについて考え続けることの重要性を説いていたのが印象的だった。

後半部は、菅野教授と近藤氏の質問に対して、3カ国が意見を共有する形式で進行された。

まず、プログラミング(映画の選定)の方針決定をどのように行っているのかという質問に対して、「ソウル」のソン・シネ氏は「今注目すべき社会、フェミニズム・女性、映画界の話題について話し合う。それは世界的な問題あるいは韓国で起きた事件や韓国の情勢にもなりうる。その上で今どの映画を上映し、何を語りたいのかということを話し合いながら、プログラムの構成を行う」と語った。

ソン・シネ氏(写真提供=©2025 TIFF)

ファン・ヘリム氏は、「現代において、どのように女性主義を拡張していくかということを悩みながら、映画を選んでいる。その拡張の幅は、二分法的・生物学的な区分を越え、より多様なマイノリティを包容する女性映画を見つけていなかければならないという思いでプログラミングを行っている」と付け加えた。

さらに、東アジアの女性の連帯について、今後どのような取り組みがあると良いかと尋ねられると、国を越えた繋がりの重要性が強調された。

なかでも、今年「ソウル」と連携し、作品を提供し合った「あいち国際女性映画祭」(以下、「あいち」)のディレクター、木全純治氏は「私が選ぶ作品とはかなり違っていた」として、「それぞれの国の映画祭がどういう観点を持っているのか知るということが刺激になった。連携を今後も続けたい」と意欲的な姿勢を示した。

ここでふと「あいち」から各国の予算について、質問が挙がった。同映画祭の上映作品の3倍を誇る「ソウル」は、釜山や富川(プチョン)といった韓国のほかの大規模な映画祭と同様に、政府と開催地となる市から費用を受け取っているという。

しかし、ファン氏は「韓国の5大映画祭のうち、毎年自動的に市の予算が組まれないのは『ソウル』のみだ。毎年映画祭支援産業に応募して、予算を確保している」と厳しい現状を語った。

ファン・ヘリム氏(写真提供=©2025 TIFF)

そして2025年の予算の内訳として、ソウル市からの4億4000万ウォン(約4700万円)と政府からの2億9000万ウォン(約3100万円)が全体の60%を占めており、残りはパートナー企業や後援者からの支援で成り立っている。ただ、公的支援は1~2年前に比べて、半減している状況だという。

ファン氏は、女性映画祭の運営における悩みとして「持続可能性・予算・規模」の3つにまとめた。その上で、収益を上げ、映画祭を存続させるために、「女性映画と女性主義に深く狭く集中するのか、あるいは公的支援を受ける際に要求される大衆的で(祭典のような)イベント中心のものへと向かうのか」と方向性への苦悩を吐露した。

最後に、日本が台湾と韓国を抑圧した加害者であった歴史について、企画者の近藤氏は「小骨がのどに詰まった感じでいつも引っ掛かる」として、東アジアが連帯する上で女性映画祭はどのような役割を果たすことができるかについて尋ねた。

これに対し、ソン氏は「単に国対国、加害者と被害者という構図について話すよりは、女性の映画制作者たちは巨視的に帝国主義や侵略主義そのものについて、どのように反省し批判的に見つめることができるかを考え、表現している」と伝えた。

続けて、「日本の帝国主義を多様な脈略で扱う女性の映画制作者の作品を紹介し、それについて話し合うことに意味があるのではないか」と意見を述べた。

参加者たち(写真提供=©2025 TIFF)

こうして予定されていた休憩時間を挟むことなく、3時間内容のぎっしり詰まったトークセッションが終了した。多様な観点からの質問を通じて、女性映画祭の強みと課題、そして3つの国の連帯の可能性を見ることのできた、意義あるイベントとなった。

文=水落さくら

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