テレビ東京の韓流プレミアで放送中の『トンイ』。10月10日に放送された第50話は、仁顯王妃(イニョンワンフ/演者パク・ハソン)の死を起点として、王宮に渦巻く権力の均衡が音を立てて崩れゆく回である。
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物語は深い悲嘆と緊迫した空気の中で幕を開ける。病に伏した王妃は、最後の力を振り絞り、粛宗(スクチョン/演者チ・ジニ)の手を握りながら「トンイを次の王妃に」という言葉を残す。
王妃の死後、朝廷では世子(セジャ)の母である張禧嬪(チャン・ヒビン/演者イ・ソヨン)を正室に昇格させようとする声が高まる。南人派の重臣たちは一斉に筆を執り、張禧嬪こそが新たな中殿にふさわしいと訴えた。
その熱気の中心にいたのはチャン・ムヨル(演者チェ・ジョンファン)である。だが、その喧噪の中でトンイ(演者ハン・ヒョジュ)はただ1人、政治ではなく母としての思いに心を注いでいた。
彼女は権力よりも子らの未来を案じ、張禧嬪に向かって静かに頭を下げて、「世子と延礽君 (ヨニングン)が兄弟として生きていけるようにしてほしい」と言った。
さらに仁顯王妃を呪ったとされる証拠を自らの手で張禧嬪に渡し、憎しみの連鎖を断とうとした。その行為には、母としての深い慈しみと、王宮で生き抜く覚悟がにじんでいた。
一方、世子は自らの身体に潜む不安を確かめるため、幼い延礽君とともに内医院(ネイウォン)へ忍び込む。彼が目にした診断書には、あまりにも残酷な現実が記されていた。自らは子を授かることができない体質であるという事実である。
そのころ、チャン・ムヨルは時勢を読み取り、巧みに立ち回る。トンイが王妃となる兆しを察した彼は、過去に匿っていた医女をソ・ヨンギ(演者チョン・ジニョン)に引き渡し、自らの安全を確保しようと動く。
この裏切りを知ったチャン・ヒジェ(演者キム・ユソク)は激昂し、トンイに騙されたと誤解して暴走する。だが、真実を確かめようとトンイのもとへ向かう張禧嬪は、途中で驚くべき報せを聞く。
トンイが新たに“嬪”の位へ昇格したというのだ。その瞬間、張禧嬪の胸に走ったのは焦燥と屈辱であり、粛宗の決断は彼女の心を再び狂気へと導く。
一方で、トンイは仁顯王妃を呪った巫女と医女の行方を追う調査を突然中止させる。彼女はすべての真実を封印し、禧嬪の前で穏やかに頭を垂れる。その潔い姿に、張禧嬪の心は一瞬だけ揺らぐ。だがそのわずかな信頼の芽は、粛宗の“善意の決断”によって踏みにじられてしまう。
粛宗は亡き王妃の遺言である「トンイを王妃にすれば、世子も延礽君も救われる」という言葉を胸に刻み、ついに最終の決断を下す。
それは国家の安定を願う王としての責務であったが、同時に新たな悲劇の幕開けでもあった。こうして、宮廷は再び嵐の渦へと呑み込まれる。
愛と信義、嫉妬と母性が交錯する中で、トンイ、禧嬪、そして幼き兄弟たちの運命は、誰にも断ち切ることのできぬ宿命の糸によって結びついていくのである。
トンイのまっすぐな願いと張禧嬪の揺れる心が今後の展開をどう描いていくのか。王宮に吹く新しい風が、静かに次の物語を運んできそうである。
文=大地 康
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