キョン・ミリといえば、『宮廷女官 チャングムの誓い』では悪役のチェ尚宮を演じた。彼女はとてもアクが強い女優だ。
そして、『イ・サン』で主人公イ・サン（正祖〔チョンジョ〕）の母親として知られる恵慶宮（ヘギョングン）に扮した。
この恵慶宮とは、どういう女性だったのだろうか。
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恵慶宮の夫は、21代王の英祖（ヨンジョ）によって餓死させられた思悼世子（サドセジャ）だ。彼は罪人として亡くなったので、王妃になるはずだった恵慶宮の運命は極端に変わった。
しかし、夫の死には、少なからず恵慶宮も関係していた。実は、彼女には夫を見捨てた動きがあったのだ。なぜ、そんな態度を取ったのだろうか。
思悼世子と恵慶宮は1744年に結婚した。2 人はともに9 歳だった。それから8 年後の1752年、後に22代王・正祖になる長男が産まれた。この時点では、恵慶宮の人生は恵まれたものだった。
その人生を狂わせたのが、1762年の思悼世子餓死事件である。このとき、恵慶宮の行動に不可解な部分がある。
それは、夫の思悼世子が米びつに閉じ込められて餓死させられるとき、「夫を助けてほしい」と願い出ていないのだ。冷たいくらいに沈黙を貫いている。
実は、思悼世子の餓死を画策した勢力の一つは、自分の実家だった。恵慶宮の父と叔父は当時政権の中枢にいて思悼世子と敵対していた。
恵慶宮も大いに悩んだはずだが、結果的には自分の実家に有利になるような動きを見せてしまった。
背景には、夫婦仲が良くなかったことが挙げられる。また、恵慶宮にしてみれば、思悼世子が亡くなったとしても、息子が後継ぎとして王になる可能性が高かった。さまざまなことを考慮して、恵慶宮は思悼世子が有利になるように動かなかった。
ただし、1776年に即位した正祖は、恵慶宮の思惑通りにはならなかった。彼は、父親である思悼世子の死に関わった者を次々と処分したが、その渦中で恵慶宮の実家は没落してしまった。
父親を慕っていた正祖は、自分の在位中に亡き思悼世子に「荘祖（チャンジョ）」という尊号を贈った。
つまり、思悼世子は死後に王に祭り上げられたのである。それによって恵慶宮も王妃となり、献敬（ホンギョン）王后と呼ばれた。
息子がりっぱな王になったことは誇らしかっただろうが、実家の没落は不本意だったに違いない。
文＝康 熙奉（カン ヒボン）
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