朝鮮王朝の22代王・正祖(チョンジョ)は名君として知られるが、本名のイ・サンで呼ばれて人気も高い。時代劇でもイ・ソジンが演じた『イ・サン』やイ・ジュノが主演した『赤い袖先』で、堂々たる主人公となってその一代記がドラマで詳しく描かれた。
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そんなイ・サンの親族といえば、1762年に米びつに閉じ込められて餓死した思悼世子(サドセジャ) が真っ先に思い浮かぶ。この思悼世は素行の悪さが指摘されており、父の英祖(ヨンジョ)が激怒して息子を米びつに閉じ込めてしまったのだ。この大事件はあまりに悲劇的であった。
しかし、このときに悪女として暗躍した親族が1人いる。
それは誰だろうか。
実は、思悼世子の妹の和緩(ファワン)なのである。
この女性はドラマ『イ・サン』ではソン・ヒョナが演じていた。
史実の彼女は、かなり問題があった女性だった。もっとはっきり言うと、性格が悪かった。
特に和緩は兄の思悼世子と仲が悪く、兄の素行の悪さを父の英祖に陰湿に告げ口していた。こうしたことで英祖が思悼世子への不信感を募らせ、結局は親子の激しい葛藤を生む原因の一つになっている。
そのことは、イ・サンもよく知っていた。
彼が即位したのは、父の思悼世子が亡くなってから14年後だが、その間、イ・サンは父への敬慕をつのらせていた。それだけに、国王になった途端に、亡き父を陥れた者たちを厳罰に処している。
その際に、大問題になったのが和緩に対する処遇だった。もちろん、血がつながった叔母であったのは確かだが、イ・サンとしては「絶対に許せない」という気持ちが強かった。
とはいえ、処刑するわけにはいかない。高官の間では「処刑すべきです」という意見も多かったが、正祖は熟慮した末に、和緩の王女としての資格を取り消して「罪人として遠島に送れ」という処分を行なった。命だけは助けた、というわけだ。
それは、イ・サンの精一杯の温情だった。儒教的にいえば、年長の親族を極刑にするわけにはいかなかった。
こうして命を救われた悪女は生き恥をさらすことになったが、後には罪を許された。その点が、斬首された他の多くの悪女とは決定的に違った。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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