3月30日からテレビ東京の韓流プレミアで『ヘチ 王座への道』が放送されるようになったが、ドラマを見ると、序盤から主人公ヨニングン(チョン・イル)の母親の身分が低いことが強調されていた。
「母親は王宮の下働きだった」
「水くみをしていて女官ではなかった」
ヨニングンが自分の母親のことをそう説明していた。
このヨニングンは後の21代王・英祖(ヨンジョ)であり、母親というのは淑嬪・崔氏(スクピン・チェシ)だ。よく知られているように、彼女は『トンイ』の主人公のモデルとなった女性である。『トンイ』では主演のハン・ヒョジュが明るく美しく演じていた。
そのように韓国時代劇のファンの間ではイメージがいい女性なのだが、『ヘチ 王座への道』ではかなり卑下されて描かれていた。
それは事実なのだろうか。
確かに、淑嬪・崔氏は王宮の水くみをしていて粛宗(スクチョン)に見初められて側室になった、と言われている。
当時、国王の側室は両班(ヤンバン)の娘か王宮で奉職する女官に限られていた。それなのに、粛宗は慣例を破って王宮で下働きをしていた女性を側室にしたのだ。よほど気に入ったのだろう。そして、王子としてヨニングンが1694年に生まれた。
『ヘチ 王座への道』ではヨニングンの母親の身分をことさら強調していて、それゆえにヨニングンが王族でありながら不当に差別されていた、という描き方になっている。
いわば、「母親のせいで低く見られてしまった王子が才覚によって国王の座を手に入れた」という「王族の下剋上」をモチーフとして成立させるために、ヨニングンの母親の身分が題材になっていたのだ。
同じ歴史上の人物を描いていても、ドラマが変わるとキャラクターの性格が大きく違ってくるということはよくあるが、『トンイ』と『ヘチ 王座への道』では、淑嬪・崔氏の身分の扱い方がガラリと変わっていた。
その淑嬪・崔氏が世を去ったのは1718年だった。『ヘチ 王座への道』は彼女の死後の物語なので、その存在がドラマに出てこなかったのは、ちょっと残念であった。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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