チョン・イルが出演したドラマを数多く見てきたが、彼は本当に情緒にあふれた俳優である。演じるキャラクターもどこか哀愁を感じさせる場合が多いのだ。
そして、『ヘチ 王座への道』で主役のチョン・イルが扮しているのは、朝鮮王朝の21代王の英祖(ヨンジョ)である。
この英祖は、27人いる国王の中で一番長生きした人としてよく知られる。また、とても業績が多いので、韓国時代劇でもよく登場している。
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その中でも記憶に残っているのは、2007年の『イ・サン』だろう。このときは晩年の英祖をイ・スンジェが演じて大好評を博した。
なにしろ、イ・スンジェといえば、韓国の俳優の中で一番の重鎮だ。それほどの大物が英祖を演じたので、『イ・サン』はドラマとしても大成功だった。
その他では、2014年の『秘密の扉』も忘れられない。このときはハン・ソッキュが演じ、本格派俳優らしく多様な表現力で気難しい国王に巧みに扮した。
さらに言えば、2016年の『テバク~運命の瞬間(とき)~』では、子役から大人の俳優として成長したばかりのヨ・ジングが、若き日の英祖をハツラツと演じていた。
こうした過去の作品と比べて、『ヘチ 王座への道』でチョン・イルが演じた英祖はどのような違いがあるだろうか。
一言でいえば、一番苦しい境遇の中で苦悩した姿をたくさん見せたのがチョン・イルだったと思える。
たとえば、『ヘチ 王座への道』の前半で、英祖は最も身分が低い母から生まれた王子ということで、王族の中でいわれなき差別を受けた。ゆえに、チョン・イルは悲しみに耐えながら演じていた。
また、後半になって即位したあとの英祖は、民衆のための政治を行なうために心血を注いでいく。そうした奮闘ぶりをチョン・イルは真摯に演じきっていた。
結局、『ヘチ 王座への道』という時代劇は、最も低い出自から誕生した王子が数多くの苦難を乗り越えて民衆のための政治を実現する物語なのである。
そういう視点で英祖を取り上げた時代劇は韓国でも初めてであり、この難しい使命を実現させるために、チョン・イルは最高の努力をしてドラマを成功に導いていった。
やはり、チョン・イルは『ヘチ 王座への道』にとって申し分のない主役であった。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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