朝鮮王朝で起こった政治的な事件を追っていくと、ときに本当にミステリアスな出来事が起こっている。その中の一つが1694年3月29日に起こった「側室毒殺未遂事件」だった。
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これは、国王に寵愛されていた側室が毒殺されそうになったという疑惑が提起された事件なのだが、現在の韓国でも強烈に記憶されているのは、事件の当事者が有名なドラマの登場人物だったからだ。
そのドラマの名前は『トンイ』であり、側室はハン・ヒョジュが演じた淑嬪・崔氏（スクピン・チェシ）である。そして、国王とは19代王・粛宗（スクチョン）だ。
事件の概要を説明しよう。
官僚の金寅（キム・イン）という者が王朝に告発状を提出したが、そこには「淑嬪・崔氏の毒殺未遂が起こりましたが、幸いに命は無事でした。この事件の首謀者は張希載（チャン・ヒジェ）です」と書かれてあった。
内容が衝撃的だったので、すぐに調査が開始された。張希載は王妃だった張禧嬪（チャン・ヒビン）の実兄である。妹の威光によって彼は大出世していたが、いくら高官になっていたとはいえ、男性が内命婦(ネミョンブ／大奥のこと)の中に入り込んでどうやって側室の命を狙ったのだろうか。そのことが不可解に思われた。
「黒幕がいるに違いない」
そういう意見が大勢を占め、あからさまに名指しされるようになったのが張禧嬪だった。
彼女には動機がある。それは、粛宗が王妃である張禧嬪への愛を失い、代わって淑嬪・崔氏を寵愛するようになっていたからだ。その事実によって、張禧嬪の立場は悪くなっていた。そこで、起死回生を狙い兄を使ってライバルの淑嬪・崔氏の毒殺を狙ったのではないか、という推測が成り立っていた。
とはいえ、明確な確証は得られなかった。
すると、恐ろしいほど政治的に立ち回ったのが粛宗であった。彼はこの毒殺未遂事件を利用して政局の転換をはかったのだ。
当時、高官の派閥争いが激化していて、張禧嬪を支持する南人派が権力を掌握していた。この派閥の影響力が強すぎることを懸念した粛宗は、毒殺未遂事件をことさら問題視して南人派の勢力を抑えようとした。その結果、毒殺事件の首謀者と名指しされた張希載は済州島(チェジュド)に流罪となり、同時に、南人派の高官の多くが処罰された。
これによって南人派の勢いは衰え、代わって国王の権限が強化されるようになった。さらに、張禧嬪が王妃から側室に降格となり、先に廃妃にされていた仁顕(イニョン)王后が王妃に復帰した。
このとき、粛宗は仁顕王后を復位させずに淑嬪・崔氏を王妃にすることもできたのだが、なぜかそれをしなかった。
粛宗は政治的に本当に頭が切れる男だった。朝鮮王朝に27人いた国王の中で、粛宗ほど高官や王妃・側室の人事を巧みに使って国王の権威を飛躍的に高めることに成功した人は他にいない。彼は深い読みを駆使して、思い通りに王宮の表と裏を操った。
文＝康 熙奉（カン・ヒボン）
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