チョン・ユミが主演した『イニョプの道』は、両班(ヤンバン/貴族階級)から最下層の奴婢にまで転落した女性が主人公になっている。
ストーリーを見てみよう。
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良家の娘イニョプは、名家の御曹司ウンギと婚礼の日に悲劇に見舞われる。イニョプの父が陰謀に巻き込まれて逆賊として処刑されたのだ。
しかも、イニョプは“逆賊の娘”として奴婢にさせられてしまう。それからのイニョプの境遇はどん底まで落ちていくのだが……。
以上の『イニョプの道』のドラマ設定の根幹は、イニョプの父が「高麗王朝の再興を狙って朝鮮王朝滅亡の謀反を起こそうとした」という濡れ衣を着せられることだ。
果たして、高麗王朝はどのように滅亡して朝鮮王朝に変わってしまったのか。当時の歴史を振り返ってみよう。
936 年に朝鮮半島を統一した高麗王朝は長い歴史を歩んでいたが、1388年に武将の李成桂(イ・ソンゲ)が乱を起こして成功させる。これによって、高麗王朝は没落してしまう。
やがて李成桂は自ら国王になることを決意し、1392年に高麗王朝を滅ぼして朝鮮王朝を建国し、初代王の太祖(テジョ)となった。
『イニョプの道』は朝鮮王朝が誕生してから10年後くらいを描いており、当時はまだ高麗王朝の復興をめざす残党が各地に残っていた。
史実のうえでも、朝鮮王朝は高麗王朝の王家一族を全滅させようとして必死だった。
建国当初には、「特別に島を用意しましたから、そこで安心して暮らしてください」と呼びかけて高麗の王家一族を集め、島に向かう船をあえて沈没させて乗っていた人たちを水死させる、という非道なことまで行なっている。このように、高麗王朝の王家一族を目の敵にしたのが朝鮮王朝だったのだ。
そんな時代を『イニョプの道』は重厚に描いた。イニョプに扮したチョン・ユミの演技もとても良かった。そして、両班から奴婢に転落した女性の境遇と朝鮮王朝の建国当初の混乱が重なり合って物語がスリリングになっていた。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
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