「絵本」と聞くと、日本だと主に「子どもが読むもの」というイメージを持っている人が大半ではないだろうか。このようなイメージに対して、韓国から日本に紹介されている絵本は、子ども向けのものもあれば、大人向けのストーリーのものまで、実に幅広いジャンルが邦訳・紹介されている。
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というのも、韓国で現代的な絵本が出版されるようになったのが1988年以降と比較的最近であるがゆえに、ベース・お手本となる作品などがあまりなく、自由に展開されていったのが理由といえそうだ。
昨今、日本でも多様なジャンルの韓国絵本が数多く邦訳出版されている。その中には、ドラマで使用された作品も。そこで今回は、日本語で読める韓国絵本について紹介したいと思う。
①『都会のワニ』クルライン&イ・ファジン文、ルリ絵、清水知佐子訳、小学館
パク・ミニョン演じる気象予報官のチン・ハギョンと、ソン・ガン演じる部下のイ・シウを中心にストーリーが繰り広げられる、社内恋愛ロマンス『気象庁の人々: 社内恋愛は予測不能?!』に重要な役割を果たすアイテムとして登場し、話題となった絵本だ。
文を担当しているのは、同ドラマの脚本を手掛けたクリエイター集団クルラインと、脚本家イ・ファジン。イラストは、第21回(2021年)文学トンネ子ども文学賞大賞を受賞し、韓国国内でも大ヒットした長編童話『長い長い夜』の作者ルリが担当している。
都会の高層ビルや騒音、人の視線に囲まれながら「何者か」になろうともがいているワニ。その姿は、無機質な社会で生きる私たちに「自分らしさ」の大切さを静かに問いかけているようにも見える。深みとあたたかさのある色合いで描かれており、内容も含め「大人向け」の絵本といってもよさそうだ。
②すべてチョ・ヨン著、チャムサン絵、宝島社
『悪夢を食べて育った少年』:第1話のムニョンとガンテが出会った朗読イベントで読まれた絵本
『ゾンビの子』第4話登場:ガンテが激しく心を動かされた童話
『春の日の犬』第7話登場:母親の呪縛からサンテを救い、自らも母親の呪縛を断ち切るムニョンが描いた物語
『手とアンコウ』第14話登場:ムニョンの母が娘に送った絵本
『本当の顔を捜して』最終話に登場:ムンヨンが物語を、サンテが絵を担当し共同で創作した絵本
兄弟愛あり、恋愛あり、サスペンスありなドラマ『サイコだけど大丈夫』。主人公であるソ・イェジが演じる童話作家コ・ムニョンの作品として、実際に登場した絵本も実は邦訳出版されている。
③『ドロシーマンション』カヒジ著、加藤慧訳、303BOOKS
クィアである作者のカヒジさんが、ニュージーランドで異なる背景を持つ人々が一つの家族のようにピクニックを楽しむ姿を見たのをきっかけに創作した、多様性をテーマにした絵本。韓国の版元である「アットヌーンブックス」は、大人のための絵本を作る出版社として知られている。
切り絵とイラストを組み合わせて作られた絵本は、他の作品とはまた違った楽しみ方ができる。作品にはそのままの自分を愛して受け入れ、ちがいを認め合っていくという想いが世界をカラフルに輝かせていくはずだ、というメッセージが込められている。
④『すいかのプール』アンニョン・タル著、斎藤真理子訳、岩波書店
夏の日に大きなスイカを割ると、そこには子どもやおじいさんが遊ぶ「すいかのプール」が現れる。タネを抜いたり、飛び込んだり、すべり台にしたり、思い思いに楽しむ姿が描かれているのがなんとも可愛らしい。
「スイカに飛び込んでみたい」という空想が、水色×赤×緑と鮮やかな色で具現化されているのも注目ポイント。子どもたちの想像力が愛らしく生き生きと描かれており、読みながら無性にスイカが食べたくなってしまう一冊だ。
⑤『あめだま』ペク・ヒナ作、長谷川義史訳、ブロンズ新社
不思議な「あめだま」を通して、自分の身のまわりにあふれていた愛に気づいていくドンドン。孤独だった少年の心に、少しずつあたたかな変化が訪れる。やさしさと発見に満ちた、胸を打つ成長物語だ。
スカルピー粘土という素材で作った人形を、ライティングや小道具まで徹底的にこだわって撮影して作られた絵本。イラストで構成された作品とはまた一味違う味のある絵本だ。
⑥『ソリちゃんのチュソク』イ・オクベ作・絵、みせ けい訳、らんか社
ソリちゃん一家を通して、韓国の秋夕(チュソク)の過ごし方を知れる一冊。特筆すべきなのは、日本語版でも描かれているお店の看板などはハングル表記のままだということ。
絵本は文字が少なく絵が多いので、外国の文化に初めて触れる・学ぶにはぴったりだ。この作品では韓国の伝統的な衣装や飾り、食事が細かく丁寧に描かれている。絵本を読むことで文化に興味を持ち、より深く学んでいくきっかけになればいいなと思う。
今回紹介した作品以外にも、凝ったストーリーのものやカラフルなイラストのもの、テーマ性がはっきりしているものなど、かなり多くの絵本が邦訳出版されている。小説やエッセイはまだ手を出す勇気がないかも…という方は、ぜひ一度絵本に挑戦してみてほしい。
(文=豊田 祥子)
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