韓国最高級のリゾート地になっている済州島(チェジュド)は、多くの韓国ドラマでロケ地になっていて、日本でもすっかりおなじみだ。この島の伝統的なマスコットになっているのが、ユニークな石像の“トルハルバン”である。
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ざらついた灰色の肌、丸く突き出た大きな目と鼻、どこかとぼけたような口元、そして、両手をお腹に添えた姿は、見れば誰もがホッコリできるかも。穏やかで素朴な存在感を放っているのだ。
名称の“トル”は石、“ハルバン”は済州方言でおじいさんを意味している。すなわち“石のおじいさん”であり、その名のとおりの愛らしい風貌である。
ゆるキャラのような外見だが、トルハルバンはかつて神聖な守護者として人々に崇められていた。その昔、島の城門の両脇に据えられ、内側に暮らす者たちを悪霊や外敵から守るという神秘的な役目を負っていたのだ。
特に、険しい顔立ちには意味があった。睨むことで、無断で城門をくぐろうとする者を退ける結界のような力が託されていた。
実際、かつて村に疫病が流行したとき門前に新しいトルハルバンを据えると、たちまち病が収まったという。まことしやかに語り継がれるそんな逸話が、今もトルハルバンの存在感を高めている。
そして現代。トルハルバンはもう怒ってなどいない。カメラを向ければにこやかに応えるような佇まいで、世界中からの旅人をあたたかく迎えてくれる。写真撮影の人気スポットとして、済州島のどこにでも立っている彼らは、かつての武装した護衛のような存在から、ほほえみの案内人へと姿を変えたのである。
済州島には、もうひとつ有名な呼び名がある。それは、“三多島”だ。すなわち“風・石・女”が多い島なのである。
風の多さは、島が南海の真ん中に浮かぶがゆえの宿命。季節を問わず、潮の香りを含んだ強い風が頬を打つ。石の多さは、大昔から噴火を繰り返した漢拏山(ハルラサン)の影響による。島全体が黒く冷たい溶岩に覆われ、どこを掘っても石に当たる。
では、女が多いというのはなぜなのか。それには諸説あるが、明確な記録はない。ただ、済州島では古来より女性が海女をして家庭を支えてきた。そんな彼女たちの力強さが、女が多いという表現に結びついたのかもしれない。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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