南海の孤島として知られる済州島(チェジュド)には、独特な景観が点在している。その象徴的な存在がオルムである。これは寄生火山のことなのだが、遥か昔に漢拏山の激しい火山活動に呼応するように誕生している。なんと、済州島には約360のオルムがあると言われている。
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これほどまでにオルムが密集して存在する地域は、地球上でも極めて稀なのである。なぜ済州島にはこれほど多くのオルムがあるのだろうか。
今から30万年前、漢拏山が誕生したときにさかのぼる。地下深くから吹き上げたマグマのエネルギーは、想像を絶するほど猛烈で、ただ1つの巨大な山を築くだけにとどまらず、島の各地に無数の小さな噴火口を作った。それが、今のオルムになったのだ。
中でもひときわ異彩を放っているのが「城山(ソンサン)日出峰」であり、済州島が誇る観光地でも人気と美しさが群を抜いている。そして、海面から突き出るように姿を現した台形の噴火口は、まるで大地が静かに息をしているような神秘性を帯びている。
その名の通り、この峰の頂上から見る朝日は格別である。空と海とが溶け合い、黄金色に染まりゆくその光景は、訪れた人の心をやさしく包み込む。標高は182メートル。ゆっくり登るのにほどよい高さであり、登山道をたどれば、30分ほどで頂上にたどり着くことができる。景色を味わいながらのんびり登っても、1時間はかからない。
頂上に立てば、かつては火と岩が舞い上がったとは信じがたいほど、草に覆われた穏やかな噴火口が広がっている。そこはおよそ3万坪の広さを持ち、放牧地のように牧歌的な空間になっている。
そして、西の空に目を向ければ、幾重にも重なる緑の丘が見えてくる。それらがすべてオルムである。その姿はどこか幻想的で、まるで遠い昔の地球の記憶が今もそこに息づいているかのようだ。
済州島のオルムは、ただの火山地形ではない。この島が生まれた記憶を、静かに、しかし確かに伝えてくれる存在なのである。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
写真=済州観光協会
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