これまでも数多くの韓国時代劇を見てきたが、『恋人～あの日聞いた花の咲く音～』ほど朝鮮王朝の苛烈な歴史を感じさせた作品はなかった。
清国の侵攻によって起こる過酷な出来事を、ドラマは壮絶なスケールで扱っていた。しかも、「厳しい戦火を乗り越えていく愛」というのは、古今東西の名作の多くで主要テーマになっており、『恋人～あの日聞いた花の咲く音～』の場合もその描き方が秀逸だった。
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実際、ナムグン・ミンが演じるジャンヒョンとアン・ウンジンが扮するギルチェは、朝鮮王朝と清国の争いの中で運命的な愛を劇的に変貌させていく。それは「引き裂かれる愛」であると同時に「再びめぐりあう愛」であった。その振幅の激しさがドラマをますます悲壮な展開に導いていった。
しかし、前提となる物語の導入部は、想像していた「普通の恋愛」とは違った。
たとえば、ギルチェのほうがジャンヒョンに惚れていく、というのが予想された流れだったはずなのだが、物語はもっと意外性があった。その背景を考えてみよう。
ギルチェは、世間知らずのお嬢様で、自尊心が強くて気持ちが浮ついている。一方のジャンヒョンは、見知らぬ土地からやってきて商売で成功している男であり、知識と教養を持っていた。しかも、優雅な佇まいが実にサマになっていて、恋愛経験が豊富なモテ男なので、田舎の淑女に興味を示さない雰囲気だった。
そうなると、ギルチェが謎めいた魅惑的な男に惚れこんでしまうかも……と思われたのだが、決してそうではなくて、ギルチェは同じ村の儒生のヨンジュン(イ・ハクジュ)に恋慕していた。
彼は親友のウネ(イ・ダイン)の婚約者であるのだが、それにも関わらずギルチェはヨンジュンにゾッコンで、当初はジャンヒョンに関心を示さない。それがまずドラマの伏線になっていた。
それなのに、次第にギルチェの気持ちがジャンヒョンに移っていく。それは、戦争によって彼女自身がたくましく成長していったことと無縁ではない。2人は常にすれ違いながらも肝心なところで再会を果たしていく。そういう形で距離が縮まっていく中でジャンヒョンとギルチェの感情は激しく交差していくのであった。
ドラマを見ていて一番感動的だったのは、ギルチェが最も窮地に陥っていた修羅場の場面だった。彼女は間違って人質にされて人格を完全に否定され、ついには無残に売られていこうとしていた。
そんな大ピンチに遠くから現れたのがジャンヒョンだった。何度もすれ違っていた2人だったが、今度こそジャンヒョンがギルチェを見つけて、そして、ゆっくり歩み寄っていった。
ギルチェとしては、売られていく自分を見られたくないという羞恥心でいっぱいだったのだが、ジャンヒョンは正真正銘の救世主として運命的にギルチェをつかまえた。その瞬間の2人の交差する激情のシーンを見て、震えるように感動が押し寄せてきた。
やはりドラマは主人公同士のスター性が大事だ。特に『恋人～あの日聞いた花の咲く音～』では、主役を担うナムグン・ミンとアン・ウンジンの感性の交わりがドラマを盛り上げている。
それだけに、壮大な歴史巨編を見終わったときの充実感がとても大きかった。
文＝康 熙奉（カン・ヒボン）
◆作品情報
『恋人～あの日聞いた花の咲く音～』
2024年7月3日(水)発売 DVD-SET1、
2024年8月2日(金)発売 DVD-SET2
2024年9月4日(水)発売 DVD-SET3
各14,740円（税抜13,400円）
※レンタルDVD同時リリース
発売・販売元：NBCユニバーサル・エンターテイメント ©2023MBC
☆2024年7月3日(水)よりU-NEXTにて独占先行配信中
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