ドラマ『トンイ』には、従来の時代劇では見られなかった立体的な人物描写が登場している。
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かつての時代劇といえば、善と悪を明確に分けて対立を生み、最後には善が勝つという「勧善懲悪」のパターンが一般的だった。
そのため、悪役はひたすら悪としてのみ描かれ、主人公はどんな状況でも善良さを失わないという、童話の登場人物のように人間味を欠いたキャラクターが少なくなかった。
しかし『トンイ』はその常識を覆す。悪の象徴とされてきた張禧嬪(チャン・ヒビン)は、序盤では現代女性にも通じる聡明さと合理的な思考を備えた人物として描かれ、やがて悪へと傾く過程も、政治的背景と絡めて説得力を持って表現されている。
中でも最も大きな変化を見せたのは粛宗(スクチョン)だ。
従来は気弱で後宮の権力争いに翻弄される王として描かれてきた粛宗だが、イ・ビョンフン監督の手によって立体的な人物像へと生まれ変わった。
厳格に座っているだけの「かかし」のような王ではなく、時に冗談を言い、好きな相手の前では屈託のない笑みを浮かべる。トンイを訪ねては少しでも長く一緒にいようとする、“恋する人”としての姿も描かれた。
第20話では、さらに「人間・粛宗」としての苦悩が浮き彫りになった。
仁顕王后を廃位する場面で、従来の作品に見られる「怒りに任せて王妃を退ける王」ではなく、一人の夫として妻を犠牲にせざるを得ない運命に苦しむ男の姿が描かれたのである。
最終的に王として決断を下すが、その過程で王妃に心情を語りかける姿には、深い人間的な葛藤がにじみ、視聴者の共感を呼んだ。
人は最初から最後まで善人であり続けることも、悪人であり続けることもできない。
状況によっては善にも悪にもなり、真剣にも滑稽にもなる。その意味で『トンイ』の粛宗は、リアリティをまとったキャラクターと言える。そしてそのキャラクターに息を吹き込んだのは、俳優チ・ジニにほかならない。
物語はいよいよ全体の3分の1に到達した。『トンイ』は今後も登場人物一人ひとりにリアルな厚みを加えながら、より豊かな時代劇として展開されていく。
(記事提供=OSEN)
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