韓国MBCが制作した時代劇『朝鮮弁護士カン・ハンス~誓いの法典~』において、チャ・ハギョン(VIXXのエン)が演じるユ・ジソンは、静かに物語を揺さぶる存在として際立っている。
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ジソンは、朝鮮時代の首都漢陽を治める重要な官職“判尹(パンユン)”として登場する人物であり、その出自は朝廷の実権を握る領議政の息子という、きわめて恵まれたものだ。しかし、彼の魅力は単なる家柄や肩書きにとどまらない。
劇中では、知性、品格、誠実さといった美点を兼ね備えた理想の男として描かれつつも、父親の巨大な影に囚われ、自分自身の信念との間で揺れる姿が丁寧に描かれている。
ジソンは、父ユ・ジェセ(演者チョン・ホジン)のような権力者になるべきか、それとも自らの理想を貫くべきか、という問いに常に直面している。
名門の1人息子としての誇りと重圧、そして判尹としての職責が彼の心を複雑にしている。正義感が強く、法に対する真摯な思いを抱くジソンだが、その思いは往々にして父の現実的な政治力学に圧倒される。
その狭間で葛藤し、悩みながらも答えを探し続ける彼の姿は、単なる完璧超人ではなく、観る者の胸に刺さる人間味を持ったキャラクターとして成り立っている。
チャ・ハギョンは、この繊細な役どころに真摯に向き合い、ジソンの抱える内面の痛みや迷いを表情と声音で見事に表現している。とりわけ、目に見えない葛藤を静かに滲ませる演技は評価が高く、視聴者の心を掴んで離さない。
これまで現代劇で多くのファンを魅了してきた彼にとって、今回が本格的な時代劇初挑戦となるが、韓服をまとった立ち居振る舞い、古語を使った台詞回し、そして静謐さと芯の強さを同時に感じさせる佇まいは、まるで古くからその時代に生きていたかのような自然さを持っている。
また、ジソンは主人公カン・ハンス(演者ウ・ドファン)、そしてヒロインのイ・ヨンジュ(演者キム・ジヨン)との三角関係においても物語に深みを加えている。
ヨンジュに対する秘めた想い、そして彼女とハンスの間に流れる特別な感情を目の当たりにしたときの嫉妬や寂しさは、ジソンのもう1つの顔を露わにする。
感情を押し殺しながらも、時にあふれ出してしまう切なさは、彼が権力と理想の狭間で揺れる存在であると同時に、1人の男性としても揺れ動いていることを物語っている。
『朝鮮弁護士カン・ハンス~誓いの法典~』は、民を救うために法廷に立つカン・ハンスの成長と復讐を描いた骨太の時代劇である。だが、それだけにとどまらず、ジソンという人物の内面の変化や心の叫びもまた、物語のもう1つの軸として強い存在感を放っている。
チャ・ハギョンの静かだが力強い演技が、このドラマ全体の厚みを支えていると言っても過言ではない。彼の新たな挑戦と飛躍は、今後の俳優人生において大きな糧となるであろう。
文=大地 康
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