ドラマ『イ・サン』でイ・ソジンが演じた名君の22代王・正祖(チョンジョ)。政治の表舞台で善政を行なってきた彼が急に倒れたのは、1800年6月のことであった。
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そのとき、正祖は48歳。若くはないが、まだ現役の国王として国の舵取りができるはずであったが、彼は高熱で苦しみ、からだ中に腫れ物ができてしまった。
体調は最悪で起き上がれない。それなのに、彼は無理して起きて、薬剤を調合する現場をフラフラしながら視察した。
そればかりではない。せっかく王宮には主治医がいるのに、地方で名声を得ている医者をわざわざ呼んで診察を受けている。その一方で、主治医のほうから「腫れ物が出ている患部を見させてください」と要請されても許可しなかった。
この一連の行動には、どんな意味があったのか。
端的に言うと、毒殺されることを極端に恐れていたのだ。
そのために、毒薬が入っていないかどうかを自分の目で確認したのだ。また、地方の名医を呼んだのも、主治医を疑っていたからだ。
それは、10代の頃から対抗勢力に命を狙われてきた正祖らしい、と言える。
そのように用心していた正祖であったが、結局は危篤に陥ってしまった。
このとき、彼を最後に看取ったのは、貞純(チョンスン)王后であった。彼女は、正祖の祖父であった21代王・英祖(ヨンジョ)の二番目の正室だ。つまり、貞純王后は形の上では正祖の祖母にあたる人であったが、同時に、正祖の恐ろしい政敵でもあった。そんな女性が正祖を看取ることになったのは、彼女が側近たちを強引に病床から遠ざけたからだ。
こうして一番の政敵の前で息を引き取った正祖。彼は貞純王后によって毒雑された可能性がきわめて高い。実際、正祖が亡くなって一番利益を受けたのが貞純王后だった。
彼女は正祖の死後、彼が重用した家臣をことごとく罷免して、進めていた改革を徹底的につぶしてしまった。
本当に、正祖にとって貞純王后は「一番恐ろしくて一番迷惑な女性」であった。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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