テレビ東京で放送中の『哲仁王后~俺がクイーン⁉~』では、9月29日の第15話で、シン・ヘソンが演じる王妃が自分で実際に料理を作って大王大妃(テワンテビ)に差し上げていた。すると、大王大妃は母親が作ってくれた料理を思い出し、ご飯粒を顔にくっつけてご満悦だった。
ドラマでは、韓国大統領官邸のシェフの魂が王妃に乗り移っているので、王妃が料理上手に変身するのも無理はない。実際、王妃は現代韓国の発達した料理術を駆使して、朝鮮王朝時代に垂涎の料理を作っていたのである。
ここで大事なのは、王妃が王宮内部の水刺間(スラッカン/王宮で料理を作って王族に提供する部署)で調理することが許されるかどうか、ということだ。
結論から言えば、現実には王妃が水刺間で料理を作ることは絶対にありえない。これはあくまでもドラマでの設定であり、現実とはまるで違う。
なぜなら、朝鮮王朝時代は厳しい身分制度があり、立場によって自分ができることには限界があったからだ。特に、王族は労働に従事しては絶対にいけなかった。
名作『宮廷女官 チャングムの誓い』でも水刺間の事情が詳しく描かれていたが、本来、女官は配膳や毒見が重要な任務であり、料理を作るのは、自宅から通ってくる男性料理人の役目だった。それは、『哲仁王后~俺がクイーン⁉~』でもひんぱんに見られる光景であった。
それなのに、王妃は男性料理人よりはるかに巧みに美味しい料理を作ることができて大王大妃にも絶賛されていたのだ。しかし、実際の王妃は普段の生活の中でも、水刺間の女官が配膳してくる料理を食べるだけであり、自ら作ることはあり得なかった。
そんなことを平然とやってしまうのもコメディ時代劇の設定が自由奔放だからなのだが、王妃は良家の令嬢として育ち、王宮に入ってからも身の回りの世話はみんな女官たちがやってくれた。それゆえ、ただジッとしているだけで生活が成り立ったのだ。
王妃が水刺間で調理をする……というのは、朝鮮王朝時代の人には想像すらできないことであった。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
■【写真】『哲仁王后』のシン・ヘソン、男性の魂が入った王妃の役作りに注目!
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