韓国時代劇で王が料理を食べるシーンを見ると、食膳に並べられた料理が豪華すぎて、とても食べきれないだろうと思える。それなのに、なぜあんなに多くの品数を出していたのだろうか。理由は二つある。
一つ目は、王は同じ料理に二回以上箸をつかないからだ。それは、何回も箸を付けると好きな料理が誰にもわかってしまい、毒殺を仕掛けやすくなるからだ。
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二つ目は、王のための料理は、厳密に言えば「食べるための料理」ではなかったからだ。逆にいえば、王の料理は「見せるために」あれだけ品数を並べていたのだ。
実は、王の食膳は市場に出ている食材のすべてを使うように工夫されていた。いわば、「食品の見本市」という役割があった。その食膳を見て、王は全国の食料事情がどのようになっているのかを察することができた。
仮に、夏にもかかわらず旬のキュウリが欠けていれば、それはキュウリの収穫に大きな問題が起こっていることを暗示していた。王はすぐに「キュウリの生産状況を調べるように!」という命令を出した。
このように、王の食膳は見せるためのものだったので、歴代王はガツガツ食べるようなことはしなかった。
ドラマ『イ・サン』の主人公になった22代王・正祖(チョンジョ)にいたっては、3 品程度に軽く箸をつける程度の小食だったという。
ただし、大量に残っても無駄ではなかった。なぜなら、王が残した料理は、それを調理した女官たちが食べるしきたりになっていたからだ。
このときばかりは女官たちも豪華な料理を堪能することができた。それを察して、名君のほまれが高い正祖は、あえて小食に徹したのかもしれない。
また、朝鮮王朝時代の歴代王は、大きな災難が起こったときには意図的におかずの数を減らした。あるいは、洪水や干ばつの被害が大きいときには肉を断って、庶民の暮らしを憂慮しているという姿勢を示した。このように、王はいつも豪華な料理に囲まれていたわけではないのだ。
意味があって王が断食することもあった。それは、王の命令に従わない臣下に抗議を示す意味合いがあった。実際、朝鮮王朝時代の王というと、なんでも意のままに政治を動かしていたと思われがちだが、実は高官たちの抵抗を受けることも多かった。そんなとき、王は果敢にハンガーストライキを実行して、臣下の者たちを牽制したのだ。
このように、王の場合は食事さえも政治的な意図が含まれていたのだ。
文=大地 康
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