17世紀前半の朝鮮王朝に起こった清との過酷な戦いを描いている『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』。壮大な叙事詩のような物語の中で、ナムグン・ミンが演じるイ・ジャンヒョンとアン・ウンジンが扮するユ・ギルチェの運命的な愛が強烈な主軸になっていた。
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しかし、ドラマは主役だけでは作れない。むしろ、主人公物語を補うサイド・ストーリーの存在が、作品の深みにつながってくる。
その担い手になっていたのが、ギルチェが慕う儒生のヨンジュン(イ・ハクジュ)と婚約者のウネ(イ・ダイン)のラブロマンスだった。
特に、『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』は、戦乱の中で登場人物たちの「生き抜く力強さ」と「他人を思いやる犠牲的な精神」を感じ取れるドラマなのだが、ヨンジュンとウネの生き方こそが尊い人間賛歌になっていた。
そもそも、ヨンジュンは成均館(ソンギュングァン)で学んでいる儒生であり、純粋な儒教思想を持っている。彼は儒教の教えを最高の道理だと信じきって生きているのだ。
それゆえ、清との戦争が始まると、国王に対する忠誠を尽くすために義兵として戦いに入っていく。その姿は、戦争の悲惨さを熟知するジャンヒョンとは対照的な姿を見せていた。
いわば、「理想主義者のヨンジュン」と「現実主義者のジャンヒョン」の対比がドラマのツボになっていたのだ。
しかし、戦争の中で道理がいつも貫かれるわけではない。それがヨンジュンの一番の苦悩であった。
そんな彼を一途に愛しているのがウネだ。彼女は人への思いやりが深く、理想に燃えるヨンジュンを心から支えていた。
しかし、ヨンジュンが戦争に行ったことでウネの運命も一変してしまう。そんな中で、ウネはヨンジュンを信じ切ることで苦難の日々を乗り切っていく。
このように、ヨンジュンとウネの信頼関係がとても感動的なのだが、自分のためではなく誰かのために奮闘する二人のエピソードは、まさに、過酷な戦乱の中で巡り合った「美しき奇跡の物語」であった。
ヨンジュンを演じたイ・ハクジュは、個性派の人気俳優だが、このドラマでも理想のために殉ずる覚悟を強烈に表現していた。
また、ウネに扮したイ・ダインは、『宮廷女官チャングムの誓い』で辛辣な悪役を演じたキョン・ミリの娘だが、天使のような存在感を役柄の中で美しく昇華させていた。
もう一人、忘れてはならない重要な人物がいる。それがジャンヒョンを兄のように慕っている歌い手のリャンウムだ。彼は情感が豊かであり、人の心を打つ歌を披露できる。
迫真の場面だったのが、ジャンヒョンとリャンウムが清の内情を探るためにあえて清の軍隊の中に入っていくシーンだ。本当にハラハラさせられるのだが、リャンウムの歌が清の皇帝ホンタイジの心を捉えるという局面がとてもスリリングだった。
このように、リャンウムを演じたキム・ユヌは奥深いキャラクターを繊細な情感で表現し、2023年「MBC演技大賞」で新人賞を受賞している。
以上の3人が、イ・ジャンヒョンとギルチェを囲みながらドラマを大いに盛り上げている。本当に『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』は、人物描写が卓越した歴史ドラマであった。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
◆作品情報
『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』
2024年7月3日(水)発売 DVD-SET1、
2024年8月2日(金)発売 DVD-SET2
2024年9月4日(水)発売 DVD-SET3
各14,740円(税抜13,400円)
※レンタルDVD同時リリース
発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント ©2023MBC
☆2024年7月3日(水)よりU-NEXTにて独占先行配信中
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