チ・ジニの名が日本の幅広い層に広く知られるキッカケとなったのは、ドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』だろう。
身分の違いを乗り越えてチャングムに熱烈な愛を傾ける内禁衛(ネグミ)の従事官ミン・ジョンホを好演したチ・ジニは、同ドラマで人気を不動にした。
ただ、チ・ジニは俳優としてユニークな経歴をもつ男だ。何しろ彼は幼き頃に一度も俳優になることを夢見たことがなかったという。
少年や少女にとって俳優はあこがれの職業。大成した俳優の多くは、小さい頃から俳優を夢見て精進してきた人たちだ。しかし、チ・ジニは一度も俳優を夢見たことがなく、小さい頃は何かを造ることが大好きだったというのだ。
時間さえあれば、木や紙を使っておもしろい模型を造っていた。大学でデザインを学び、そのまま広告会社に就職。広告の写真やデザインを手掛けるクリエーターになった。
そんな彼に目をつけたのが、大手芸能事務所の関係者だった。チ・ジニは1年間にわたって俳優への転身をもちかけられた。それほど、チ・ジニには一般人でありながら俳優に匹敵するオーラが漂っていた。
しかし、チ・ジニにはその気がなかった。
「年齢も上だったし、結婚もしなければいけないので、ずっと辞退してきました」
そこまで語るチ・ジニは、なぜ芸能界への転身を決意したのだろうか。
「もし、IMF危機が来なかったら俳優にはならなかったと思います」
チ・ジニは率直にそう語る。
「IMF危機」とは、1997年に韓国を襲った未曾有の経済危機のことである。IMF(国際通貨基金)から莫大な融資を受けなければならないほど、韓国の国家財政は危機に瀕した。当然ながら企業の倒産が相次ぎ、チ・ジニが勤めていた会社も危なくなってしまった。
それでも、一応はドラマ『ジュリエットの男』に出演するが、演技力不足もあって、さして注目されなかった。下積みを経験したチ・ジニ。徐々に演技力が磨かれていった。
そして、2002年にフジテレビと韓国MBCが合同で制作したドラマ『ソナギ』で人気女優の米倉涼子と共演することになった。このドラマでチ・ジニは韓国の刑事を颯爽と演じて、日本でもその名が知られるようになった。
そんな彼の転機になったドラマが『ラブレター』である。
今まで演じたことがないようなクールな人間に扮し、内面の葛藤をうまく表現する演技派への道を開いた。この演技が評価されて、『宮廷女官 チャングムの誓い』で主演のイ・ヨンエと共演するという大役を射止めた。
『宮廷女官チャングムの誓い』の出演が決まったあとのチ・ジニは意欲的だった。
乗馬やタップダンスを習い、からだの切れをよくするための努力を怠らなかった。さらに、ミン・ジョンホ役の鋭いイメージを生かすために減量にも取り組んだ。
その甲斐があって、彼は朝鮮王朝時代の逞しい官吏をキリリと演じた。チャングムが苦境に立ったとき、いつも彼女のそばにいて優しく支える「韓国版サムライ」の姿は凛々しかった。
イ・ヨンエはメディアとのインタビューの中でチ・ジニを「今まで共演した俳優の中でも、特にすばらしい俳優」と絶賛した。普段口数が少ない彼女が共演した俳優を称賛するのは非常に珍しいことだ。それほど、イ・ヨンエにとってチ・ジニの存在は大きかったのである。
実際、チ・ジニは俳優仲間やスタッフから信頼されている。彼が『チャングムの誓い』に出演できたのも、ドラマ『ラブレター』の制作スタッフが積極的に推薦してくれたからである。
2005年、チ・ジニは香港のミュージカル映画『ウィンター・ソング』で金城武と共演。映画の中で、チ・ジニは踊りと歌も披露している。外国の映画で新しいことにチャレンジし、芸の幅を大きく広げたことは間違いない。
さらに2010年には『チャングムの誓い』のイ・ビョンフン監督から再び指名されて、『トンイ』に出演。朝鮮王朝19代王・粛宗(スクチョン)を人間味たっぷりに演じて好評を博した。
以後も、『お願い!キャプテン』(2012年)、『大風水』(2012年)などで存在感を示している。
「俳優というのは、死ぬまで勉強しても不足するほどずっと緊張を余儀なくされる職業ですが、演技は面白いですね。確実なことは何一つなくてもやりがいがあります」
そう語るチ・ジニは、悩みがあればプラモデルを組み立てて気分転換をはかるという。そこには、ものづくりを夢見た少年時代の面影も甦る。
◇チ・ジニ プロフィール
生年月日:1971年6月24日生まれ
星座:かに座
身長:178cm
出身校:明知大学金属デザイン科
☆主な出演作
『ジュリエットの男』(ドラマ、2000年)
『ラブレター』(ドラマ、2003年)
『宮廷女官チャングムの誓い』(ドラマ、2003年-2004年)
『スターの恋人』(ドラマ、2008年-2009年)
『トンイ』(ドラマ、2010年)
『お願い!キャプテン』(ドラマ、2012年)
『大風水』(ドラマ、2012年)
『ミスティ~愛の真実~』(ドラマ、2018年)
『アンダーカバー』(ドラマ、2020年)
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