傑作時代劇『太陽を抱く月』を演出したキム・ドフン監督は、主役としてキム・スヒョンとハン・ガインの起用にこだわった。それは、ドラマを牽引する原動力は「主役男女の相性」という信念があったからだ。
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それと同じように重視したのが、悪役を一手に引き受けた大妃(テビ)の役だった。この大妃は、宮中で陰謀をめぐらせてヨヌ(序盤は子役のキム・ユジョンが演じた)を死に至らしめている。
その大妃の配役に関しては、キム・ドフン監督はキム・ヨンエの起用に執着した。彼女は、ハ・ジウォンが主演した『ファン・ジニ』で厳しい師匠の役を演じて絶賛されたベテラン女優だ。
キム・ドフン監督は念願を叶えてキム・ヨンエの出演を実現させた。実際に彼女は大妃の役にピッタリで、宮中で「何かが起こる」という不気味さを漂わせていた。
この大妃はまったくの架空の人物であるのだが、史実を見渡すと、11代王・中宗(チュンジョン)の三番目の正室だった文定(ムンジョン)王后によく似ている。
歴史的に典型的な悪女として名を残した文定王后は、自分がお腹を痛めて産んだ息子を国王にするために非道な策略をめぐらし、朝鮮王朝を大いに混乱させている。結局、中宗の先妻が産んだ仁宗(インジョン)を毒殺してしまつた。それによって我が息子を13代王・明宗(ミョンジョン)として即位させることに成功した。
こうして大妃になった文定王后が果たして何をしたのか。一族で政治の中枢を独占して賄賂政治をやり続けたのだ。しかも、民衆の暮らしを悪化させることばかりを行っていた。それほど強権を持った「悪の大妃」であった。
そんな文定王后を彷彿させるのが『太陽を抱く月』の大妃あり、史実を巧みに使ってキム・ドフン監督は『太陽を抱く月』を本格時代劇に仕上げていった。
なお、『太陽を抱く月』で悪辣な大妃を演じたキム・ヨンエは、惜しまれながら2017年に亡くなっている。画面に出てくるだけで強烈な存在感を見せてくれる名優であった。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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