NHKの韓流プレミアで放送中の『太陽を抱く月』。このドラマを見るうえで重要なキーワードが7つある。そのキーワードを3回に分けて紹介しよう。
最初に紹介するのは星宿庁(ソンスクチョン)と巫女(ムニョ)である。この2つはどんな役割があるのだろうか。
キーワード1 王室の安寧を祈る実在した官庁、星宿庁
ドラマで巫女たちが所属する星宿庁は、朝鮮王朝時代に実在した官庁。王室の安寧を祈り、祈祷によって晴れや雨を願うのが仕事で、所属する巫女は“国巫堂(クンムダン)”と呼ばれるエリートだった。
もともとは、高麗時代にあった機関がそのまま受け継がれたものと推測されているが、その実態は定かではなく、設置された年代も不明である。
儒教を国教とする朝鮮王朝では、星宿庁の存在意義に対して否定的な意見が多く残されている。
星宿庁に関する記述は、正史「朝鮮王朝実録」の中でも9代王・成宗(ソンジョン)、10代王・燕山君(ヨンサングン)、11代王・中宗(チュンジョン)の時代に散見される。そこには何が書かれているのか。
1478年、成宗の治世9年目では、庶民の巫俗を禁じながら星宿庁を存在させているのは矛盾しており、即刻禁止して欲しいとの上訴が出されている。続いて、1506年、中宗の治世1年にも同じような上訴が記録されている。
燕山君の治世のように、国巫堂の雑務を免除するなど擁護する時代もあったものの、儒教を社会規範とする朝鮮王朝では星宿庁に対する風当たりが強く、結局、中宗の時代に廃止されてしまった。
キーワード2 病気を治し未来を予言する霊能者、巫女
祭祀や祈祷で霊と通じあうことのできる神秘的な能力を持っている人たちを巫女と呼んだ。「女」という字があるが、男性の場合でも巫女という。もちろん女性のほうが数は多かったのは確かである。
巫女は人間と神を繋ぐ者と信じられた半聖人のような存在と思われていた。病気になったときに巫女を呼んで祈祷する理由もここにあった。
巫女に求められる能力としては、「神への祈りを捧げて奇跡を起こすこと」「呪術」「予言」などがあり、儒教を推進している朝鮮王朝以前には政治的にも大きな影響力をもった。
彼女たちが活躍したのは、高句麗・百済・新羅が朝鮮半島の覇権を競いあっていた三国時代。当時の歴史を記した「三国遺事」には、数々の政策に巫女が関わっていたことが記されている。
「太陽を抱く月」では、巫女アリがヨヌの数奇な運命を予見するなど、巫女が見た運命が作品の大きなカギとなっている。
しかし巫女は、朝鮮王朝時代は最下層の奴婢に属し、国巫堂のような一部エリートを除き、その存在は軽んじられていた。
この続きは、2回目の中編で紹介しよう。まずは、この前編で紹介したことをおもい浮かべながらドラマを見てみるといいかもしれない。
構成=大地 康
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