イ・ドンゴンの颯爽としたイメージを根本から変えたドラマ……それが『七日の王妃』であったと言える。当初、イ・ドンゴンが燕山君(ヨンサングン)を演じると聞いたときは驚いた。彼が現代劇で爽やかなイケメンを演じることが多かったからだ。
特に、『七日の王妃』の前作だった『月桂樹洋服店の紳士たち~恋はオーダーメイド~』ではキリリとしたスーツを着こなして完璧な紳士を演じきっていた。その印象が強烈だったし、彼にはそれまで時代劇に出演したことがなかったので、現代劇以外のイメージも浮かばなかった。
それなのに、暴君として悪評まみれの燕山君を演じるというのもビックリだった。
【写真】【悪役となったイケメン】『七日の王妃』で燕山君を演じるイ・ドンゴン
本当に意外なキャスティングだったが、実際に『七日の王妃』で燕山君を演じたイ・ドンゴンを見て、「これは適役に違いない」とすぐに納得することができた。
それほど、イ・ドンゴンは燕山君の役を自分のイメージに巧みに引き込んでいた。
このドラマでの燕山君は冒頭から精神的な苦痛を抱えていた。その原因は、国王の長男でありながら父の成宗(ソンジョン)から無視されてきたこと、そして、異母弟の晋城大君(チンソンデグン)が自分をさしおいて国王から可愛がられてきたことだった。
歴史的に見ても、燕山君の母は朝鮮王朝で最初に廃妃になった尹氏(ユンシ)である。結局は死罪となって自害しているのだが、そんな母親の怨念を背負って燕山君は生きていかなければならなかった。
その苦しみをイ・ドンゴンは怨念が入り混じった視線で強烈に印象づけていた。彼は国王になった後も晋城大君を執拗にイジメ抜く。その際のイ・ドンゴンの演技には、ゾッとするほどの恐さがあった。同時に、「ここまでやるのか」と思えるほど憎悪が満ちていた。
それは、爽やかなイケメンばかりを演じてきたイ・ドンゴンにとって、凄まじい変化であった。
そういう意味でも、『七日の王妃』はイ・ドンゴンの役者魂が感情表現に凝縮された時代劇であると言える。俳優イ・ドンゴンにとって、それまでのキャリアを一変させる革新的なドラマが『七日の王妃』だったのだ。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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