時代劇『ヘチ 王座への道』を見ていて、「強烈な個性を持った役だなあ」と感心するのが、イ・ギョンヨンが演じるミン・ジノンだ。
彼は、ドラマの冒頭から権力を掌握した老論派の重鎮として登場している。ときには国王以上に影響力を持っており、自分の派閥を優位に保つためなら手段を選ばない。
悪の権現と見なされた密豊君(ミンプングン)と手を組むことがあれば、チョン・イルが演じるヨニングンと結託することもあった。しかし、事情が悪くなると、密豊君やヨニングンを容赦なく非難して老論派の保身に終始する。要するに、権力の維持しか考えない典型的な悪徳高官なのである。
そんなミン・ジノンを見ていると、実際に朝鮮王朝の王宮では、彼のような権力型官僚が幅を利かせていたのだろうと推察できる。そういう意味で、ミン・ジノンは朝鮮王朝の官僚政治の悪弊を象徴するような人物だ。
そんなミン・ジノンを演じているイ・ギョンヨンも、重厚な演技力を持った個性派俳優だ。彼は、『ミセン-未生-』で扮した専務理事の役があまりに有名だ。
このドラマは、イム・シワンが演じたチャン・グレが大手商社に入社して奮闘する姿を描いた名作だが、専務理事は社長の座を狙って自分の出世しか考えないような冷酷な上司だった。そんな役を演じて、イ・ギョンヨンは憎たらしいほどの存在感を見せていた。
このように、彼は俳優として「冷酷」「保身」「出世」「権力」といったキーワードがピッタリの役にふさわしい適性を見せている。
とはいえ、イ・ギョンヨンが『ヘチ 王座への道』で扮しているミン・ジノンは、単純な悪役ではない。権力欲の奥に潜む人間の生きざまもたっぷりと見せてくれる。こういう人物を敵に回すと「本当に恐ろしい」と思わせる凄みを持っているのだ。
それゆえ、ヨニングンはミン・ジノンという人物と慎重に相対しなければならない。そこが国王をめざす彼の課題だ。
後半に向けて、ヨニングンとミン・ジノンの勝負が本当に見ものになってきた。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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