ドラマ『トンイ』の主人公トンイ(=淑嬪・崔氏)は、第19代国王・粛宗(スクチョン)の側室となり、3人の子どもをもうけた。
しかし、1693年10月6日に生まれた長男イ・ヨンス(李永壽)と、1698年生まれの三男は幼くして夭折。唯一生き残ったのが1694年10月31日に誕生した次男のイ・グム(李昑)で、30歳を迎えた1724年に第21代国王・英祖(ヨンジョ)として即位する。
イ・グムは、当時の政治を二分していた老論(ノロン)派と少論(ソロン)派の激しい対立の中で成長した。
1720年に父・粛宗が崩御し、張禧嬪の子である景宗(キョンジョン/第20代国王)が即位すると、老論派の支持を受けたイ・グムがヨニングン(延礽君)という名で王世弟(国王の後継候補の弟)に冊封される。
その後、1724年に病弱だった景宗が急逝。ヨニングンは王座を引き継ぎ、朝鮮史上最長となる51年6カ月もの長きにわたり国を治めた。
享年81歳と歴代朝鮮国王の中でも最も長寿で、日頃から菜食中心の食事、規則正しい生活、定期的な検診を怠らなかったと伝えられる。
英祖は政治や文芸に数々の功績を残し、孫の正祖(チョンジョ/第22代国王)の時代に朝鮮王朝が中興する土台を築いた王として高く評価されている。
一方で、異母兄だった景宗を毒殺したとの疑惑や、息子の思悼世子(サドセジャ)を米びつに閉じ込めて餓死させた事件が、今もなお汚点として語られている。
その劇的な生涯から、時代劇や映画で繰り返し描かれてきたのも事実だ。
正祖を主人公としたドラマ『イ・サン』では、大御所俳優イ・スンジェがカリスマ性あふれる英祖を熱演し、「最も英祖役にふさわしい俳優」と称賛を集めた。
2015年公開の映画『王の運命-歴史を変えた八日間-』では、『パラサイト 半地下の家族』のソン・ガンホが冷酷な父としての英祖を迫真の演技で再現。息子を死に追いやる姿は観客に強い印象を残した。
さらに、ドラマ『テバク~運命の瞬間(とき)~』では子役出身の俳優ヨ・ジングがヨニングン時代を熱演。物語は「もし長男のイ・ヨンスが生きていたら?」という仮定を軸に描かれており、イ・ヨンスをモデルにした主人公テギル役をチャン・グンソクが務めた。
ヨニングンが王座に就くまでを描いた『ヘチ 王座への道』では、チョン・イルが主演。除隊後の復帰作として注目を集めた。脚本は『トンイ』『イ・サン』のキム・イヨンが手がけ、「朝鮮三部作」の一つとされる。
近年の話題作『赤い袖先』では、イ・ドクファが晩年の英祖を演じた。孫のイ・サンを溺愛する一方、死に追いやった息子・思悼世子への嫌悪感と罪悪感が入り混じった気持ちを渾身の演技で体現。
イ・サンに王位を無事継承し、最期には思悼世子の幻影を見ながら「約束は守った、そうだろう?」と呟く場面は、多くの視聴者の胸に深い余韻を残した。
■【トンイの真実】美化されたドラマ。本当は恐ろしかったトンイの「裏の顔」
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