『太陽を抱く月』を韓国で放送したMBCが、制作を正式に決定したのは2011年8月のことだった。
決め手となったのは、チョン・ウングォルの同名小説の出来が良かったことだ。なにしろ、チョン・ウングォルといえば、小説『成均館スキャンダル』でもよく知られた作家で、ストーリーを作るのが巧みだった。
ただし、当時は制作の環境が不利だった。
まずは制作予算の問題だ。当時、MBCは『階伯』と『武神』という2つの時代劇を作っていて、予算を大幅に超えるほど苦戦していた。
「よほど予算を削らないと制作にかかれない」。次に作る『太陽を抱く月』はそんな状況だった。
さらに、監督の人選で難航した。時代劇の制作で経験が豊富な監督の適任者がおらず、白羽の矢を立たされたのは時代劇を演出したことがないキム・ドフン監督だった。
彼はこう振り返る。
「私があたふたと演出家に決まりましたが、当時は時代劇全般の視聴率がよくなかったので、大きな重圧になりました」
そんな状況の中でキム・ドフン監督がめざしたのは、「幅広い年齢層に見てもらえる時代劇にしよう」ということだった。
それは、正統派の時代劇を好む年配者にも、テンポが早い展開を好む若者にも受けるような作品をめざす、ということだった。
さらに、キャスティングにこだわった。
結局、主役コンビは、『ドリームハイ』で人気俳優となったキム・スヒョンと「純粋な初恋を象徴する女優」とも評されたハン・ガインになった。
年齢はハン・ガインのほうが6歳上だが、この組み合わせは意表をつく新鮮さがあって大当たりした。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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