Netflixで配信されているドラマ『隠し味にはロマンス』で、また1人の名優がその存在感を強く印象づけている。それがキム・シンロクだ。
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韓国ドラマ界において“信頼できる演技派”として名を馳せる彼女が演じるのは、主人公モ・ヨンジュ(演者コ・ミンシ)がオーナーシェフを務める田舎のレストラン“ジョンジェ”の従業員チン・ミョンスクである。
チン・ミョンスクは、一見すると無口で冷静、常に仕事に全力投球するストイックな女性である。
しかし、物語が進むにつれ、その鋼のような外見の内側に、寂しさや過去の傷、そして不意に芽生える恋心といった繊細な感情が滲み出てくる。その微妙な揺らぎをキム・シンロクは、誇張のないリアルな演技で丁寧に表現している。
彼女の演技には、言葉に頼らず、わずかな視線の動きや間の取り方、ため息の呼吸までもが感情を物語る“沈黙の表現”がある。今回もその真骨頂が随所に見られ、観る者の心に静かに、しかし確実に沁み入る演技となっている。
元々舞台出身のキム・シンロクは、長年演劇の世界で実力を磨いてきた。
30代を過ぎてから映像作品に本格的に進出し、『地獄が呼んでいる』などで世界的な評価を得た彼女は、派手さではなく“人物の内面を掘り下げる力”に長けた遅咲きの名優だ。
『隠し味にはロマンス』のチン・ミョンスクという役柄には、これまでの彼女の蓄積が如実に反映されている。
仕事に誇りを持ち、感情を抑えて生きてきた1人の女性が、思いもよらぬ形でロマンスに巻き込まれていく。そんな展開の中で、キム・シンロクは時にコミカルな表情も見せ、観る者に意外性と親しみを与えている。
重厚さだけではない、柔らかくチャーミングな側面が垣間見えることで、彼女の演技はより立体的になっている。
韓国ドラマ界は今、過剰な演出よりも“リアルさ”を重視する傾向を強めている。
日常の中のささやかな感情や、言葉にならない揺らぎを表現できる俳優が求められている時代にあって、キム・シンロクのような女優はまさに時代の要請に応える存在だ。
『隠し味にはロマンス』という一見ライトなラブストーリーの中においても、彼女はその演技で物語に奥行きを加えている。
どこにでもいそうで、しかしどこにもいない“リアルなキャラクター”を体現するキム・シンロク。彼女の登場シーンには常に温度があり、言葉以上に雄弁な沈黙が物語を豊かにしている。
キム・シンロクの演技は、視聴者に一歩踏み込んだ感情の理解を促し、ドラマをただの娯楽以上のものに変える力を持つ。
『隠し味にはロマンス』という物語の中で、彼女がどのように心を揺さぶる演技を見せてくれるのか。その余韻にしばし酔いしれることになるだろう。
文=大地 康
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