かつて朝鮮王朝時代に悪を懲らしめるヒーローだった暗行御史(アメンオサ)という仕事を知っているだろうか。韓国時代劇を例に取ると、人気時代劇『100日の郎君様』の第7話では、主人公たちが地方の役人に徹底的に苦しめられて窮地に陥ってしまう場面でカッコよく登場したのが暗行御史であった。
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この暗行御史とは、具体的に何を指しているのか。それは、地方の官僚たちの不正を監視し、民衆の声を探るために国王自らが選んだ特使の名である。彼らは国王の深い信任を得た限られた人材から選ばれ、任命されると事目(サモク)、鍮尺(ユチョク)、馬牌(マペ)と名付けられた三つの道具を携えて各地を巡った。
その中で、事目とは公務に関する記録を記した書物、鍮尺は真鍮製の計測具で死体の検視に用いられ、最後の馬牌は自らの地位を示す証である。これらを手にすれば、どこにおいても地方の役人や警察を動かすことが可能となる。
暗行御史たちは自らの身分を隠し、時には物乞いに扮するなどして、悪行に及ぶ役人の正体を探り出す。不正が発覚すると、馬牌を掲げ、「暗行御史、出頭!」と叫ぶ。それにより動員された捜査陣が不正行為を行なった役人を捕えるのだ。
このように喝采を浴びる暗行御史の中では朴文秀(パク・ムンス/1691~1756年)が特に名高い。彼は歴史を編纂する卓越した官僚だったが、33歳の時に権力闘争に巻き込まれ、官職から追放された。幸運にも3年後に復帰し、以後は暗行御史として各地を巡り、役人たちの不正を取り締まった。
民衆からすれば彼は救世主であった。朴文秀は民衆の苦悩の声を聞きつければすぐに行動に移し、その痛みを癒した。しかし、不正を行なう官僚からすれば、厳格な判断を下す鬼のような存在だった。
このように朝鮮王朝時代に悪徳役人たちを懲らしめた暗行御史。もしも現代社会にいれば、間違いなく、庶民を苦しめる連中を摘発する「時代を超えた英雄」になっていたことだろう。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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