王宮にいる女官というのは、朝鮮王朝の国家公務員であった。政府から給料をきちんともらっていた。
その給料というのは、米や生地などの現物で支給されることがほとんどだが、それでも現金で直接もらうこともあった。
こうした現金は果たして何に使ったのか。
一番多かったのは化粧品だったという。王宮に出入りしている業者を通して、女官は自分が気に入った化粧品を買うのを楽しみにしていた。そこはやはり女心である。
さらに、切実な願いもあった。というのは、ほとんどの女官にとって、一番大きな野望は王の側室になることだった。
そのために必要なのは、自分を美しく見せることだった。そして、少しでも自分を魅惑的に見せるために、給料でもらった現金をせっせと使っていたのだ。それが女官の楽しみでもあった。
といっても、500人から1000人ほどいる女官の中で、王の側室になれるのは、本当にごくわずか。可能性はかぎりなく少なかった。それでも、ゼロではない。わずかでも望みがあるなら、精一杯に美しくありたいというのが、女官の生きる希望であったかもしれない。
それにしても、女官の生活は窮屈なことも多かった。その最たることが、宮中から出ることができなかったということだ。ずっと、王宮の中だけで生活しなければならなかった。いわば、「カゴの中の鳥」である。それが宿命であった。
そうやって、女官は老いるまで王宮で暮らし、病気になるとお役御免で外に出されてしまった。しかし、どこへ移ればいいのか。帰っていける場所がある人は幸せである。多くの女官はやめさせられた後は身内を頼るしかなかった。その身内もいれば幸いで、長い王宮暮らしの中で身内もいなくなっていれば、女官は王宮の外に出て路頭に迷うしか手立てがなかった。
そういう意味でも、多くの女官は寂しい晩年を過ごさなければならない運命だった。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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