『魔法のランプにお願い』は、Netflixが世に送り出した眩い幻想と現実の冷酷さが織り交ざるファンタジー・ロマンティックコメディである。
物語の中心に立つのは、千年近くの眠りから解き放たれたランプの精ジーニー(演者キム・ウビン)と、感情を閉ざし氷のような冷徹さを抱える女性ガヨン(演者ペ・スジ)である。2人の邂逅は寓話のような運命性を帯びながらも、痛々しいまでの人間的な葛藤を鮮烈に映し出し、冒頭から観る者を強烈に引き込むのである。
物語の基盤には“3つの願い”という古典的で単純な仕掛けが据えられている。しかしその背後に潜むのは、人間が抱える欲望の深淵や失われた愛への哀切、そして救済を求める飢えた心である。無垢で世間知らずなジーニーと、徹底して他者を拒絶するガヨンの対照的な存在は、滑稽さと緊張感を同時に生み出し、視聴者を飽きさせない。
第1話はガヨンの過去から幕を開ける。幼少期に母から捨てられた彼女は、その傷を抱えたまま成長し、やがて母と再会する。舞台は煌めく砂漠都市ドバイ。しかしその再会は和解ではなく、憎悪をぶつけ合う冷酷な場面となり、ガヨンが母に「二度と祖母を傷つけるな」と突き放す言葉は、観る者に鋭く突き刺さる。
物語はさらに幻想へと傾斜する。観光中に砂漠で偶然つまずいたガヨンが拾ったのは、運命を変えるランプであった。怒りに任せて乱暴に叩きつけるうち、砂嵐の轟音と共に声が響き、そこから姿を現したのがジーニーである。
彼は解放してくれた主がガヨンであると告げ、彼女に“3つの願い”を要求する。だが日々を無機質なルーティンで埋め尽くし、願いなど存在しないと信じるガヨンは、その申し出を冷ややかに拒絶する。
ジーニーはやがて、自分を983年前に封じた存在とガヨンの間に不可思議な因縁を嗅ぎ取り、彼女への興味を募らせる。一方でガヨンは彼を振り切ろうとあらゆる手を尽くすが、超常的な力を前に抗うことはできない。
果ては殺害を試みるという極端な行動に出るも失敗し、逆にジーニーの怒りを買う。彼は「3つの願いが果たされ、お前が死ねば自分は自由になる」と宣言し、彼女を恐怖へと追い込む。
物語のクライマックスでは、ジーニーがガヨンの首を締め上げ「助けてと願え」と迫る。しかし、死の恐怖に晒された彼女が浮かべたのは怯えではなく、むしろ愉快そうな笑みであった。その予想外の反応にジーニーは動揺し、2人の関係が単なる精霊と主人という枠を超えた複雑な運命に絡み合っていく兆しを見せる。
『魔法のランプにお願い』第1話は、煌びやかな幻想世界の装飾と、冷たい人間の心の闇を抉るシリアスな要素を巧みに融合させていた。
特にガヨンの氷のような冷酷さと、ジーニーの純粋無垢な奔放さが激しく衝突する場面は、単なる恋愛劇に収まらない緊張感を漂わせる。笑いと怒り、切なさと恐怖が入り混じるこの幕開けは、視聴者に「次に何が起こるのか」という期待を強く抱かせる鮮烈な内容だった。
文=大地 康
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