張緑水(チャン・ノクス)は、10代王・燕山君(ヨンサングン)の側室だった女性だ。もともと、張緑水は酔客の相手をする妓生(キーセン)であったが、歌がとてもうまかった。噂を聞いた燕山君が10歳年上の張緑水をとても気に入って側室として迎え入れた。
暴君と呼ばれた燕山君。そんな彼に対して、張緑水は子供をあやすように接する。幼いころに母親を亡くした燕山君にとって、張緑水は母性を感じさせてくれる存在だったに違いない。
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張緑水は性格が最悪で、しかも嫉妬深かった。当然ながら、燕山君の寵愛を受けていた2人の側室に嫉妬するのだが、それが宮中で事件を巻き起こす。1504年、張緑水は「2人の側室が、私の部屋に王を非難する文章を送ってきました」と報告したのだ。それを聞いた燕山君は、2人の側室の家族をすべて捕えて拷問にかけた。
しかし、誰1人自白しようとしないので、彼女たちの家族は全員処刑されてしまう。この事件で、燕山君は張緑水の言葉を疑うことなく信じたが、周りの者たちは「張緑水に逆らったら殺されてしまう」と恐怖を感じるようになった。
こうして、燕山君の心を独占した張緑水の行為は、どんどん激化していく。
ある時、燕山君が多くの妓生を呼んで酒宴を開いたが、1人の妓生が張緑水のチマ(スカート)を間違って踏んでしまった。すると、燕山君はその妓生の首を容赦なくはねたのである。もう常軌を逸していた。
王の心をつかんだ張緑水はどんどん横暴になっていき、王朝の金庫を空にするほど財宝を使い切ってしまった。しかし、それも長続きしなかった。
1506年、燕山君はクーデターで王宮を追われて廃位となってしまう。張緑水も王をたぶらかした罪で斬首に処され、その遺体は人々にさらされた。そのとき、多くの人が張緑水の遺体に向かって石を投げたという事実で、彼女がいかに憎まれたかがわかる。それほど、典型的な悪女だったのだ。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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