Netflixで配信されている『呑金/タングム』で主演を務めるイ・ジェウクが、これまで培ってきた演技の幅をさらに広げ、観る者の記憶に深く刻まれる存在となっている。
【写真】イ・ジェウクの“アクティブな”近況。抜群のプロポーションは相変わらず
本作で彼が演じるのは、朝鮮最大の商団“ミン商団”の息子で剣士のシム・ホンランだ。過去を失いながらも、帰還と同時に“ミン商団”の支配構造に亀裂を入れる、この得体の知れない役柄に全身全霊で挑んでいる
イ・ジェウクが表現するホンランは、言葉よりも沈黙、動きよりも静けさの中に本質がある。眼差しに宿るわずかな光と影、わずかに震える指先や乱れた呼吸が、彼の中で渦巻く記憶の断片や失われた時間の重みを浮かび上がらせる。その演技は、ただ見るのではなく“感じる”ものであり、観客は次第にホンランの内側に吸い込まれていくような錯覚を覚える。
中でも目を奪われるのが、剣を握る瞬間にこめられた感情の爆発だ。イ・ジェウクが体現する剣術は、ただ洗練された技ではなく、その背後に痛みや迷いといった心の葛藤がにじんでいる。
その一振り一振りが、過去を求めてさまよう魂の叫びとなり、剣が振るわれるたびに、彼の存在そのものが問われているようでもある。剣はただの武器ではなく、失われた自分自身を探すための問いである。また、ホンランと異母姉シム・ジェイ(演者チョ・ボア)の関係は、物語の核心にある感情のうねりを象徴している。
再会を喜びきれない複雑な心情、過去の影に縛られた姉弟のあいだに漂う空気は、言葉以上に視線や仕草で語られる。イ・ジェウクとチョ・ボアの間に生まれる微細な緊張と温もりは、観る者に深い余韻を残すだろう。
これまで『偶然見つけたハル』『還魂』などで瑞々しい青年像を演じてきたイ・ジェウクだが、本作ではその経験を糧に、役柄と一体化する深みある演技へと昇華させている。ホンランを演じているという意識を忘れさせるほど自然で、役そのものと化した彼の姿は、俳優としての成熟を感じさせる。
『呑金/タングム』は、ただの記憶喪失劇にとどまらず、過去と現在、そして心の深淵を描き出す濃密なヒューマンドラマである。
時代劇の枠を超え、観る者の感情に直接語りかけるような作品として、多くの視聴者の心を捉えるに違いない。そしてその中心にいるイ・ジェウクの演技は、まさにこの物語の魂そのものである。
文=大地 康
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