『コクドゥの季節』の中には、「トッケビや九尾狐、閻魔さまにでもならなければ…」というセリフが出てくる。
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コン・ユが出演したドラマ『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』には、不滅の命を生きるトッケビ(日本では鬼と訳される)や、死神が出てきた。九尾狐は九つの尾を持つ狐の伝説で、『僕の彼女は九尾狐』や『九尾狐<クミホ>伝~不滅の愛~』など、何度もドラマが作られてきた。閻魔さまと言えば、日本でもなじみが深いが、映画『神と共に』でイ・ジョンジェが演じていたのが思い出される。
韓国では、こうした伝説や精霊や妖怪をもとにした作品は多い。『コクドゥの季節』も、人間に天罰を下す死神と、医師の女性との時空を超えた恋を描いた作品だ。
遠い昔、ソリ(イム・スヒャン)は、意に沿わない婚礼に沈んだ末、想いを寄せるオ・ヒョン(キム・ジョンヒョン)と逃亡を計画。しかし、道半ばでヒョンが殺害されてしまう。ヒョンは強い思いであの世でソリを待ち続けたが、そのせいで神の怒りにふれ、死者を黄泉の国に導くコクドゥに。彼は、ソリからの愛を得られない限り、永遠に呪いは解けないと宣告される。
現代の韓国、医師をしているハン・ケジョル(イム・スヒャン)は、勤めている病院で患者に難癖をつけられ解雇されてしまう。意気消沈し、階段で転びそうになっていたときにある男性(キム・ジョンヒョン)に助けられる。その後、ケジョルは病院の面接で助けてくれた人と同じ顔の医師ト・ジヌ(キム・ヒョンジュン)に再会するも、ほどなくして彼はマンションから転落。しかし、ジヌの体の中にはコクドゥの魂が宿り、生き返るのだった。
ト・ジヌの死には、新薬の開発をもくろむ会社・ピルソンバイオのキム・ピルス(チェ・グァンイル)の陰謀が絡んでいたり、人間に天罰を与える死神のコクドゥが、罪深い人間を殺しに行く場面などもあって、ミステリー的な要素もあるのだが、ドラマの大半は、ケジョルとコクドゥとのラブ・コメディである。
コクドゥは、運命の相手であるソリの生まれ変わりのケジョルに愛されたいのだが、ケジョルは同じ顔・体に宿っていたト・ジヌのことが好きだった。しかし、冷静沈着で冗談の通じないト・ジヌと、歯に衣着せぬコクドゥとは正反対。いつもケンカばかりのケジョルとコクドゥだったが、やがて、コクドゥといるときには、ケンカができるほど自分が素直でいられることに気付いていく。
コクドゥとト・ジヌ、そしてオ・ヒョンという一人三役を演じるキム・ジョンヒョンは『愛の不時着』で、ヒロインのユン・セリ(ソン・イェジン)とお見合いをしたイギリス国籍の詐欺師役を演じていた。詐欺師の役なのに、後半にはソ・ダン(ソ・ジヘ)との恋の行方から目が離せなくなるほどで、不思議な魅力を放っていた。
今回も、クールで何を考えているかわからないト・ジヌと、率直でちょっと俺様なところもあるコクドゥを演じ分けていた。しかも、ケジョルをめぐって、恋のライバルを一人で演じるという、難しい設定である。
しかし、コクドゥの決して聖人君子というわけではないけれど、どこか温かみを感じさせる姿に、『愛の不時着』のク・スンジュンが重なった。個人的には、ケジョルが棒アイス(日本で言うとガリガリ君のような)を割って差し出したときに、より多く棒にアイスがついているほうを当然のごとくコクドゥが食べるシーンに大爆笑してしまった。
また、ケジョル役のイム・スヒャンは『私のIDはカンナム美人』や『今日から私たちは』でヒロインを演じてきた。特に『今日から~』の役柄は、溌溂としていて嘘がない感じで、日本でいうと広瀬アリスがドラマで見せる役の雰囲気に近い気がする。本作でも、ケジョルの裏のないキャラクターに大いに笑わされた。
韓国ドラマの魅力のひとつに、脇役にも焦点が当たることがあるだろう。ケジョルと同級生でト・ジヌをめぐってのライバルであったテ・ジョンウォン(キム・ダソム)が、ケジョルの弟で刑事のハン・チョル(アン・ウヨン)との距離が近づいていく場面や、コクドゥ様に使えるオクシン(キム・イングォン)やカクシン(チャ・チョンファ)の“半神”コンビの二人がいる場面が、楽しみのひとつでもであった。
最近は韓国ドラマというと配信で公開されるような、映画さながらのスケールで作られたシリアスな作品も多くなってきた。しかし昔ながらの、気楽に笑ったり、奇想天外な展開にハラハラしたり、その中にある実直なキャラクターの様子を見て勇気がでたり、ラブロマンスにドキドキしたりして、気付いたら朝になっていたというようなドラマになかなか出会えなくてさみしいという声も聴く。
『コクドゥの季節』は、かつてよく見ていた韓国ドラマの面白さや楽しさを思い出させてくれる作品でもあるのだ。
文:西森路代
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