朝鮮王朝の国教は儒教であった。それによって、儒教的な男尊女卑ということが強調される社会になってしまった。科挙は朝鮮王朝が実施した全国的な官吏登用試験だが、この科挙を受ける権利が女性にはなかった。
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つまり、女性はエリートになれなかったということだ。能力が高い人でも自分の才能を伸ばす手段がなかったというのが、女性が抱える現実だったのだ。
ただし、出世を望む唯一の方法は王宮の女官になることだ。とてつもない美人であれば王の目に留まり、側室になって王の子供を産むという可能性もあった。それはきわめてまれな成功例だが、女官になるというのは女性が公の職に就ける唯一の方法だった。
朝鮮王朝時代に王宮には1千人くらいの女官がいたと言われている。朝鮮王朝の終盤には、財政的な問題もあって500人くらいに減ってしまったが……。
なお、王宮に来る女官は王と婚姻したとみなされた。それだけに、他の男性と結婚できないし、恋愛することも禁じられた。仮に女官が王宮内で男性と恋仲になると、厳罰に処された。さらに、妊娠したりすると王に不貞を働いたことになり、処刑される運命だった。そして、生まれた子供は奴婢(ぬひ)にされる。そのように、本当に過酷な運命となる。
また、女官が病気になったりすると、王宮から出されてしまう。なんの保障もなく市中に放り出されるのだ。本当に寂しい晩年を過ごさざるを得なかった。
こうした宿命を負った女官という立場。それをドラマの中で縦横に見せたくれたのが『赤い袖先』であった。
このドラマではイ・ジュノが名君イ・サンを演じたが、彼に愛された女官がイ・セヨンの演じるソン・ドギムだった。彼女はイ・サンから何度も求愛されたが、その都度、拒んでいた。最終的には側室になるのだが、その過程では自立した女性として自らの信念を貫き通した女官であった。
そういう意味で、『赤い袖先』のヒロインだったソン・ドギムは史実でも儒教的な男尊女卑を超越していく芯の強い女性だ。もしも女官でなかったら、朝鮮王朝の歴史を変える改革者になっていたかもしれない。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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