ドラマ『ヘチ 王座への道』が終盤に向かうにつれて、チョン・ムンソンが演じる密豊君(ミルプングン)の悪事が顕著になっていく。
とにかく、密豊君は性格が悪い王族だ。
数々の悪事を働いたうえに、王座への執着を捨てない。世弟(セジェ)となっているヨニングン(チョン・イル)を罠にはめようと常に陰謀をめぐらしている。
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こんな男が国王になったら、王朝は絶対に衰退するに違いない。それだけに、『ヘチ 王座への道』では密豊君の動向にハラハラせざるをえない。
そんな密豊君が最悪の王族になったきっかけは、自らの一族の生い立ちだ。
彼は、「悲劇の王子」と呼ばれた昭顕(ソヒョン)世子のひ孫だ。
昭顕世子は16代王・仁祖(インジョ)の長男だったが、父親と確執があって、結局は仁祖に毒殺されたと言われている。
このとき、昭顕世子には3人の息子がいたが、上の2人は殺されてしまった。そして、最後に残った三男だけがかろうじて生き、その孫となったのが密豊君だった。
彼は屈折した人生を送った。
「先祖の昭顕世子が無事であったならば、自分たちこそが王朝を引き継いでいた」
そういう思いがとても強かった。
それゆえ、景宗(キョンジョン)やヨニングンのことも認めたくない。それどころか、昭顕世子の名誉を回復して、もう一度王位継承権を取り戻したかった。そのことに執念を燃やし、歪んだ性格から悪事を重ねることになった。
思えば、この密豊君は哀れな王族なのだ。現実を認めることができず、恨みばかりが先走っている。
一方のヨニングンは、母親の出自があまりに低かったので、王族の中でもずっと卑下されてきた。しかし、屈辱に耐えて王族として精進したからこそ、品格と見識を備えることができた。それは、ヨニングンの努力の賜物なのだ。
同じように不遇の中で育った2人の王族……密豊君とヨニングンは、まるで正反対の方向に歩いて行った。ヨニングンは正しい道へ、密豊君は悪の道へ。
その対比を『ヘチ 王座への道』は鮮やかに描写していた。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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