7月17日から韓流プレミアで放送されている時代劇『トンイ』。前編の最後で、張禧嬪(チャン・ヒビン)に鍵に付ける飾りを見せてほしいと頼んだトンイだが、お付きの女官に「持ち物を見せろとはなんて無礼な」とおこられて追い出されそうになってしまう。
そのとき、“理由は何か”と張禧嬪に問われたトンイは「その方にぜひお聞きしたいことがあるのです」と答えた。
張禧嬪も了解して“鍵に付ける飾り”を見せてくれた。しかし、トンイが探していたものではなかった。気落ちしながらトンイは去って行った。
だが、トンイが探していたものを張禧嬪が持っていたのは確かで、実は別の箱に大切にしまわれていたのだ。お付きの女官が「あんな無礼な者は処罰しましょうか」と尋ねると張禧嬪は首を振った。
「私はあの子が気に入った。大事なことに命をかけて、なんでもやり抜く子だ。頭もいい。ぜひ、あの子について調べてくれ」
この言葉で、張禧嬪がトンイに興味をもったことがよくわかる。一方のトンイも同僚から張禧嬪が低い身分の出身と聞いて驚く。
「自分と同じ身分なのか……」
希望が見えてきたトンイは、張禧嬪に強いあこがれを抱く。
以上のように、時代劇「トンイ」では張禧嬪と淑嬪・崔氏の関係が当初は良好であったかのように描かれている。
それは人間の付き合いが変わっていく様〔さま〕を誇張する手法の1つである。仮に2人の主人公クラスの配役がいたとして、その関係が最初から“険悪”では物語が単調になりやすいが、“良好”から“険悪”への振幅を大きくすれば、それだけ伏線を物語の中に入れることが可能になる。その伏線こそが話を面白くする重要な要素なのだ。
トンイに興味を持った張禧嬪と、その張禧嬪にあこがれるトンイ。この前提が時代劇「トンイ」の前半を彩っていて、後半に展開される両者の対決の伏線になっている。
史実とはかなり違っているが、記録に現れなかったことを想像力で補うのもドラマの可能性の1つであろう。
悪女という烙印を押された張禧嬪にしても、人間として深い情愛をもっていなかったと誰が断言できようか。時代劇『トンイ』は、張禧嬪の人間的な部分にもっと光を当てようとした意欲作であったことは間違いない。
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