Netflixで大好評を博した『暴君のシェフ』。主人公の国王イ・ホン(演者イ・チェミン)のモデルが10代王・燕山君(ヨンサングン)で、チンミョン大君(演者キム・ガンユン)のモデルが晋城(チンソン)大君となっている。
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史実では、燕山君と晋城大君は異母兄弟であり、燕山君のほうが12歳も年上だった。それゆえ、晋城大君は国王だった燕山君にいつもイジメられていて、異母兄に対して恐怖心すら抱いていた。その怯える心情を象徴するエピソードがある。
それは、1506年9月に燕山君排斥のクーデターが起きたときだ。クーデター軍の一部が晋城大君の邸宅へと押し寄せた。彼らの胸中には「暴君を退けたのち、晋城大君を次の国王に擁立する」という熱い使命が燃えていた。
しかし、突然の軍勢に屋敷を取り囲まれた晋城大君は驚愕した。武器を構えた男たちの影を見た瞬間、「間違いなく殺される…」と恐怖に締めつけられた。
彼の目には、それが燕山君の差し向けた「暗殺者たち」の幻影として映ったのである。それほどまでに、彼は兄の暴威を恐れ、生きた心地を失っていた。
絶望の淵に沈んだ彼は、自害を図ろうとまでした。その瞬間、必死に止めたのが妻の慎(シン)氏だった。彼女は冷静に、押し寄せてきた人々の気配を見抜き、夫をしっかり諭した。それによって、晋城大君はようやく落ち着き、クーデター軍の真意を理解するに至った。
だが、彼は燕山君に代わって王位に就くことを拒んだ。「裏切り者」として歴史に刻まれることを恐れたからである。
やがて燕山君は王位を剥奪されて宮廷から追放された。クーデター軍は正式に晋城大君へ国王就任を要請したが、彼は繰り返し辞退した。しかし、時代の奔流は彼に逃げ場を与えなかった。もはや拒絶は許されぬことを悟り、ついに晋城大君は決意を固めた。
こうして、恐れと迷いを抱きつつも、晋城大君は11代王・中宗(チュンジョン)として玉座に就いたのである。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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