不朽の名作と称される映画『風と共に去りぬ』のヒロインはスカーレット・オハラ。彼女はアメリカ南部の裕福な家庭で育ったお嬢さんで鼻持ちならないわがまま娘だった。
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そんな彼女が南北戦争という厳しい戦乱をくぐり抜けて骨太な女性にたくましく変わっていく。その壮絶な生き方が世界中の映画ファンに強烈な印象を残した。
このスカーレット・オハラと同じイメージを鮮烈に残したのが、『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』でアン・ウンジンが扮したユ・ギルチェだった。
彼女は両班(ヤンバン)という上流階級で育った令嬢で、「プライドの塊」のような女性であり、「世界は自分のためにある」というタイプだった。そんなギルチェが、清国が朝鮮王朝に攻めてきた1636年を境にして劇的に変貌していく。その変化をずっと見守ってきた男が、ナムグン・ミンが演じるイ・ジャンヒョンだ。
彼は朝鮮王朝時代には珍しい非婚主義者で、扇子を振りながら優雅に暮らす男だった。同時に、商才にたけた通訳官でもある。そんなジャンヒョンが運命的な出会いを経てギルチェに惚れて、自分の主義をあっさり変えるほどに違う生き方にめざめる。
しかし、清国の大軍が朝鮮王朝の首都まで押し寄せてくるという緊急事態の中で、ギルチェとジャンヒョンは生死の選択を迫られていく。平和な時代であれば美しいラブロマンスを作れた2人なのに、状況はそれどころではなく、ギルチェとジャンヒョンは歴史の荒波に巻き込まれてしまう。
特に、ギルチェの場合は、朝鮮王朝が清国に屈服したことによって悲劇的な運命にさらされる。彼女は人質と間違えられて瀋陽に連れて行かれ、そこで奴隷のような身分に落ちる。こうした展開はドラマを見ていても本当に切なかった。
ギルチェは人間の尊厳をズタズタにされてしまうのだが、本当に彼女が助けを求めたときに現れてくれたのが、頼りになるジャンヒョンであった。そこが『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』の一番の名場面となっていた。
このドラマにはもう一つのストーリーがある。ギルチェが最初から惹かれていた儒生のヨンジュン(イ・ハクジュ)の婚約者になっていたのが、ギルチェの親友のウネ(イ・ダイン)だった。この二人は後のギルチェを支える大きな柱となって、物語に深みをもたらす存在になっていた。
17世紀の朝鮮王朝に起こった清国との厳しい戦乱を描きながら、その中で強烈な個性をぶつけて愛し合うのがギルチェとジャンヒョンだった。その生きざまを見ていると、打ちのめされるほどの感動に包まれていく。こうした歴史巨編を作っていけるのが、韓国ドラマ界の底力だと率直に思える。
〔『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』ドラマ概要〕
制作/MBC、2023年
配信/U-NEXT
演出/キム・ソンヨン他
脚本/ファン・ジニョン
出演者(演じた役名)/ナムグン・ミン(イ・ジャンヒョン)、アン・ウンジン(ユ・ギルチェ)、イ・ハクジュ(ナム・ヨンジュン)、イ・ダイン(キョン・ウネ)、キム・ユヌ(リャンウム)、チ・スンヒョン(ク・ウォンム)
文=康 熙奉(カン ヒボン)
作家。1954年東京・向島で生まれる。韓国の歴史・文化・韓流や日韓関係を描いた著作が多い。『知れば知るほど面白い 朝鮮王朝の歴史と人物』を含めた朝鮮王朝三部作は70万部を超えるベストセラーとなった。最新刊は『朝鮮王朝「背徳の王宮」』。
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